Art2008_04

imgf1a9b4d7zikbzj.jpeg紙芝居作家 / 古本市 

厚紙に潜むダークサイド

新橋の大古本市で購入した、紙芝居を鑑賞したわ!

タイトルは「いきている  おにんぎょう」

幼い少女が生まれたばかりの妹の面倒を中断し、隣の少女と共に人形を持って広場に遊びに行ってしまうの。おままごとをしたり、人形の頭にお花を飾ったりしているうち、少女は自分の人形より隣の子の人形の方が数段よく見え始め羨ましくなってしまい、家に帰るなり母親に新しい人形が欲しいとねだったわ。

母は妹を指さし一言こういったの。

「うちにはこんなに可愛いお人形さんがいるのだから、可愛がってあげなさい」

実に教育的な内容なのだけど、大人になったピポ子にはとても恐ろしく感じられたわ。だって、この紙芝居のテーマは「人間の欲」なんですもの!

人間は誰でも他人に対して嫉妬心を抱くでしょ?常に他人と比較し、その欲望は尽きる事はない。この主人公の少女は、親の愛情が生まれたばかりの妹に注がれた事が悔しくて面倒を放棄し、自分のキューピーが隣の少女の人形に劣ると判断してわがままを言う。

ラストの母の言葉で、姉としての自覚が芽生えた少女が妹を愛しく思うという展開になっているけど、そんなに簡単に親の思惑通りになる訳が無いわ。だって彼女はこれから嫉妬や怒り、憎しみや悲しみにどっぷりと冒されて成長していくのですもの。

優しい切り絵風の絵柄からはそんな生臭さは一切感じられないけど、根底に大人の身勝手な"ドス黒さ"が見え隠れしてちょっぴりほくそ笑んでしまったわ。この紙芝居を本当に楽しめるのは無垢な子供ではなく、私たちの様な大人なのかもしれないわね。是非もう一作ご紹介したいので、それはまた別の機会に・・・ふふふ。

img371cfabdzikezj.jpeg紙芝居作家 / 古本市 

猜疑心の芽生え

紙芝居第二弾「ともちゃんととめいにんげん」!

主人公の男の子、ともちゃんは自己中心的で荒っぽいの。『透明人間の仕業だ!!』と言っては列に割り込んだり、遊具を奪ったりと傍若無人な振る舞いばかりするものだから、友達も先生も呆れ顔。

そんなある日、ともちゃんに本当の透明人間が声をかけ、次々と友達に悪さを始めたから大変!皆はすべてともちゃんの仕業だと思い、彼は村八分になるのよ。

でも、度を過ぎたいたずらをする透明人間から友達の危機を救い出し、ともちゃんは皆と仲直りする事が出来たの。その様子を見ていた見えない友達は、彼に別れを告げ新たな仲間を探しに行ってしまう・・・というお話よ。

幼い子供達の猜疑心がどんどん目覚め、当たり前の様に存在していた"信頼"が失われた時、個人個人がどう思いどう行動するのかというのがテーマね!

紙芝居の裏に印刷された"お話のねらい"という欄に『ともちゃんのわんぱくぶりや透明人間との決別する場面を強調しないように』と記載されてるけど、それは子供用だから。その部分をピックアップしてこそ"大人向け"になるのよ!!!!!!!!

透明人間はこれから自分のパートナーを探しに行くのだからかなりブラックな結末よね・・・。この作品は、これから様々な人間関係の渦に巻き込まれていく子供達の為に暗黒のバイブルとなるに違いない。さあ、ちびっ子達!!こちらの世界にいらっしゃい・・・。

img40f2f42fzik1zj.jpeg内藤ルネ他 /「反主流の美学」展

異端者達の叫び

ピポ子の大好きな銀座の画廊で、またもや面白い展覧会が行われてたわ。1960〜70年代という渾沌とした時代に暗躍した"反主流"のアーティスト達の作品を集めた、その名も「反主流の美学」展よ!

こじんまりとした空間には濃度の高い作品が主張し合い、息苦しいくらい。目を引かれた作品は数あれど、まず太田蛍一氏の「猫」は見てぞっとしたわ。黒い手袋を身に付けた貴婦人がお乳を与えるその対象・・・それは猫2匹!夫人の両乳房は猫のひっかき傷で一杯なのに、彼女の表情は喜びで一杯なの。色使いもほぼモノトーンなので、不気味さたっぷりだったわ。

一番衝撃的だったのは、昭和少女文化を築いた著名なイラストレーター、内藤ルネ氏の・・・な、な、なんとあの"薔薇族"の表紙の原稿が展示してあった事よ!!短髪軍隊風ヘアーに黄色のチョッキを身に着けた青年が、憂いを秘めた目で読者を見つめる「心が砕けてしまいそう」というイラストには、「こちらが砕けてしまいそうだ!」と言い返したいくらいの色香が漂っていたわ。

清純可憐な少女を描き続けていた氏の新たな切り口にピポ子は感動したけど、ファンの方はこの事実をどう受け止めるのだろうか・・・と考えながら、「月曜映画」のオープニングでもお馴染の丸尾末広氏の生原稿の美しさにため息をもらしつつ画廊を後にしたわ。

今回は渋沢達彦氏や中井英夫氏の希少な幻想文学などのコレクション等が販売されており、かなり後ろ髪を引かれちゃった。しかし、本当にこの時代は音楽も絵画もアート全てが、個性的で意思を持った力強いものばかりなのね。そしてそのエネルギーを存分に味わいたいと思う受け手側のパワーも相当なものよ。こうでなければ新たなものは何も生まれてこないわ!

imgcb0e3c50zik4zj.jpeg安野光雅 / 個展

金の三国志、絵筆が導くドラマ

画家であり絵本作家でもあり装丁家でもある、安野光雅さんの展覧会が開催されていたのだけど、かなりの盛況ぶりでびっくりしちゃった。

場所柄年配の方が8割といった感じだけど、今回の作品のテーマが"三国志"というのもあって、会話から察するにかなりの三国志マニアも来場していたみたい。実はピポ子は風景画や三国志はあまり得意とは言えなかったのだけど、この展覧会でその考えは180度変わったわ!物語を題材にした作品の場合、大抵は登場人物に焦点を当てて描くけど、安野さんは違う。

常に中国という広大な世界を中心に物語を描いているので、風景は大胆に、人物は小さく繊細に描かれているの!その描かれてる一人一人が"個人"として存在しており、彼らの人生がドラマのように想像出来るので、1枚の絵を見ているだけで何時間もかかってしまうわ。しかも92枚という大作・・・一体安野さんはメインの人物以外、どれだけの人生をこの絵に描いているのだろうか・・・。

更に驚いた事に、どのキャンバスも地色に薄く金色が塗られていているので、その上に黒や朱等の色をのせるとたまらない風合いが出ていたわ。その金の上品さといったら・・・いまだかつて見た事が無いの!わざと色褪せているような風合いを出したかと思えば、その上に鮮やかなラピスラズリのブルーを用いる事で現代的にも見えるし、とにかく感性が豊かで引き出しの多い方だという事が理解出来たわ!

どの絵も場面毎にタッチが変わり、大胆な勢いがあったかと思えば細やかな美しさがあったり、「赤壁の戦い/パート3」では、上部から兵士を見下ろしたような構図が考えられないくらい奇抜なもので、まだ脳裏に焼き付いてるわ!御年82歳というのになんというエネルギーかしら・・・ううむ、負けられない。
刺激的なアートに触れ、お疲れ気味のピポ子のアンテナは全開!

Art Review

2008 4-5
紙芝居作家1 / 古本市
紙芝居作家2 / 古本市
内藤ルネ他 /「反主流の美学」展
安野光雅 / 個展

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