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デブって言うな・・・。

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01014.png春希久 / 日舞

ジャパニーズ・エンタメ!

悪夢のような震災から復興に向け日本全体が一丸となりつつあるわ。

こんな時だからこそエンタテイメントが日本を活気づけるべきだと思っていたら、お知り合いの日本舞踊のお師匠、春希久さんから踊りの発表会のご案内が!踊りを通じて日本文化を継承していこうという彼女の意気込みには日頃から賛同してるし、Ustもお手伝いしているので楽しみに伺ったの。

ピポ子は日本舞踊の知識が全く無いものだから、何もかもが新鮮。"番組"と呼ばれる演目が書かれた紙を見て春希久さんの出番を確認し、他の方の舞台を堪能したわ。会は長唄と舞踊の19場で構成され、出演者総数は約40名というかなりのボリュームよ。

今回春希久師匠が演じたのは、安珍清姫伝説で有名な「鐘の岬」という演目なの。

安珍に恋をし、怒り恨みを重ねる激しい情念の序章部分だそうよ。舞台に現れた師匠は普段の穏和な雰囲気とは違い、凛とした美しさを備えた日本人形のよう・・。少女の初々しさから女性の妖艶さへと変化していく様が、様々な仕草や着物の早替えで表現されていたわ。ため息が出るような"儚い美しさ"というのは、日本ならではのものなのよね・・日本人で良かった!

ひとつ残念だったのは、開演前に演目のタイトル案内を出したり、ピポ子のような素人や外国の方が楽しめるよう、物語を深く掘り下げた情報があれば尚楽しめたかな・・という事ね。

今回こうして伝統的な日本文化を体感することが出来て楽しかったし、もっと深く理解したいと興味がわく人も多いと思うもの。是非とも春希久さんにはジャンヌ・ダルクの如く先陣をきってもらい、若い人たちと共に新たな舞の世界を展開して欲しいわ。

そしてこの素晴らしさを更に知らしめ「日本ここにありき」とアピールしてもらいたい!師匠、おたのみもうします!

20110429.jpgシェイクスピア / 舞台

ウィンザーの陽気な女房たち

ご招待を受けて、久々にお芝居を見に行ったの。シェイクスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」よ!

この作品は、一説によるとエリザベス女王が「ヘンリー4世」2部作に登場する騎士フォルスタッフを気に入り、シェイクスピアに『彼の恋物語が見たい』と言ったことがきっかけで生まれたと言われているのだけど、実に見事で恐ろしい喜劇だなぁ、というのが正直な感想かしら・・。

演じ手や演出によって多少解釈が変わるのかもしれないけど、タイトルの「陽気」がとてつもない"毒"を含んでおり、女性の立場からすれば大変心地良く響く気がする。舞台はウィンザー・・金に困った騎士フォルスタッフは、ある策略を巡らすの。それは、自分に気のあるそぶりを見せる大金持ちのフォード、ペイジ夫人と付き合い、彼女達から金を巻き上げる事。

しかし両夫人はフォルスタッフを嫌悪しており、彼の悪巧みに気付くと街全体を捲き込んで復讐した、というお話よ。夫人2人の頭脳プレイが進行する中、嫉妬深いフォードが夫人を疑ったり、ペイジの娘の結婚騒動があったり、召使い達が自分の損得で動いたりと幾つものストーリーが入り組んでいくのが実に面白い。どのキャラも色濃く存在しているのにぶつかることは無く、人間の浅ましさや愚かしさがコミカルに表現されていたのが素晴らしかったわ。

嫉妬深いフォードが妻の不貞を疑った時、「恋は誠に影法師。いくら追っても逃げていく、こちらが逃げれば追ってきて、こちらが追えば逃げていく。」と言っていたのが印象的よ!恋に悩む人が必ず一度は経験するほろ苦い思いを言い得ているわ。

この舞台を通して感じたのは、失礼ながら、やはり男性は精神的に幼いので、女性がリードする方がうまく纏まるという事ね。女性は常に美しく、賢く、ユーモアが無くてはいけない・・そして毒というエッセンスを持ち続けることが魅力であり、生きていく上で不可欠であると確信したわ。ピポ子もいい加減良い子過ぎるのは卒業して"生き上手"にならなくては・・。

20110701.png江戸東京建物園 / 建築

究極のモダニズム

前々から行ってみたかった小金井公園内にある「江戸東京建物園」へ。

ここでは明治から昭和までの文化的価値の高い建造物を移築し復元展示しているの。一歩広い館内に足を踏み入れたら、時間の感覚が麻痺してきたわ。今感じている時間は、数分前に感じているものは全く異なるもの・・懐かしさと安心感で大きく包まれていくようよ。

池袋のナンジャタウンや日光江戸村と違い全てがほぼ本物だからかもしれないけど、建物ひとつひとつから暖かさや息づかいを感じ取れたわ。藁葺き屋根の大きな農家からモダニズムを追求した大正時代の住宅、更に昭和初期の商店、映画「千と千尋の神隠し」のモデルになった銭湯など、どこも靴を脱いで実際に上がることが出来、肌でその時代を感じることが出来るのが嬉しい。

ボランティアの方達が囲炉裏で火をおこす実演をされたり庭の手入れをされ、地域ぐるみでこの素晴らしい歴史を残していこうという姿勢に心を打たれたわ。ピポ子が特に気になったのは、大正時代田園調布に建てられていた大川邸と文京区の小出邸よ。どちらもヨーロッパのデザインが見事に取り入れられ、食堂、寝室、書齋が配置されているの。

丸い窓にピアノにオーブン・・教科書でしか見たことの無いような小道具が実際目の前に存在しているのも感動よ。家具は全て当時のもので、緋色のソファはこの応接間の為にデザインされたに違いない!と思われる程の美しい色合い。部屋全体が1枚の絵の様な完成度の高さなの!特に驚いたのは照明の笠のデザインね。幾重にも布が重ねられたり房が垂れていたりと、部屋の雰囲気に合わせて変えられているのよ。

現代でもこれほどモダンな作品があるかと思うほどの伝統的でありながら斬新なものばかり。こんなにも個性に溢れ、細かい部分に迄神経が行き届いた"作品"があったなんて!日本も捨てたもんじゃなかったのね!人生の中で一番長い時間を過ごす大事な住まい・・安全性や利便性を追求していくと仕方のないことなのかもしれないけど、いつからこんなにも味気なく統一されたものばかりになってしまったのかしら。

でも、日本はこんなにも表情豊かで美しかったという事実を目の当たりに出来て何だか誇らしい気分よ。ピポ子も終の棲家は究極のモダニズムを追求したデザインにしてみようかしら・・。

tujimura.jpg辻村寿三郎 / 個展

警告者!

辻村寿三郎・・この方をどうお呼びしたらいいか。

人形師、着物デザイナー、アートディレクター・・いやいや、そんな肩書きが当てはまる人物ではない。

彼は「警告者」と呼ぶべきかも。それは全ての"表現をする者"達に対する、そして生きとし生ける者全てへの警告だと確信したわ。先日友人のひとみさんに誘われ、目黒雅叙園で開催されていた「辻井寿三郎展」で久々に彼の作品と対面。歴史ある雅叙園のロケーションが見事にシンクロして、予想以上の素晴らしさだったわ。

ただ、一回りした後には、魂が責められたように酷く疲れてしまった・・これが警告を受けた証なのよ!寿三郎さんの作品をご覧になったことのある方はご存じだと思うけど、彼がひとつひとつ命を吹き込んだ人形達はどの子も密かに呼吸しているの。

その表情、仕草だけで、どんな個性を持っているか、どんな生き方をしているのかが一目瞭然。本気で挑まないと彼らから発するものを受けれない、つまりこちらのチャンネルをオープンにしておかないと真意を感じる事が出来ないのかも。

本展では平家物語に登場する人物がモデルになっていて、歴史に忠実に再現されてはいるけど、寿三郎カラーと彼の解釈が程よくブレンドされて実に"モダン"なのよ!唇には金の紅、爪の赤さ・・現代的でありながらこの非業の深さを表現出来るなんて神業としか言いようがないわ。

数ある名作の中で一番感銘を受けたのは、怨霊になった崇徳上皇と円位の対面する場面なの。目玉が落ちそうな変わり果てた上皇とその姿に涙する僧侶、円位・・足下には黒い羽で覆われた河童のような形相の怨霊達が蠢き、その壮大さはまるでオペラの一場面のようだったわ。

悲しみの深さ、そして奈落の恐ろしさを越えた美しさにしばらくその場を離れられなかったの。今回ピポ子がお持ち帰りしたのが「佛御前」!彼女は平清盛が愛した舞姫なんだけど、自分から清盛を捨てたの。そして尼になり、自分の前に寵愛を受けて捨てられてしまった舞姫 王と余生を過ごすという潔い女性なのよ。その自分の道を貫き、更に相手の心を思いやる心意気が素晴らしくて思わずポートレイトを購入しちゃった。

女性たるもの、こんな風に生きていきたいわね!本展を開催するにあたり、寿三郎さんはこうおっしゃっていたわ。「この可哀相な人形達を見て、自分はまだまだ頑張れる、と元気を持って欲しい。だからこの人形達を作った。」なるほど。明るいものを見て励まされることはあるかもしれないけど、これだけの業を背負った彼らと向き合えば自然と前向きになっていくもの。寿三郎さんの思いの深さに、ただただ頭が下がる思いだわ。

不思議なことにこの展覧会を見てから自分の今後の方向性がハッキリ決まったの。その表現活動に余生を費やす決意を固め、佛御前の様に本当の意味で強い人間にならなくては・・そして皆さんに警告しますよ!

100319.jpg泉谷しげる / 個展「マンガは爆発だ!!」

鬼才・泉谷画伯

泉谷しげる氏が新宿高島屋で個展『マンガは爆発だ!!」早速足を運んだわ。

正直、今まで泉谷氏の音楽や言動に興味はなかったけど、TVで彼の作品を見た途端「こりゃ只者ではない!」と衝撃を受けたからなの。その大胆な色使い、筆遣い、キャンパスから溢れ出る熱情はテレビの画面を通しても十分すぎるほど伝わって来たわ。

ファンの方はご存じかもしれないけど、泉谷氏が漫画家を目指していたという事実を知り凄く親近感がわいたのも理由の一つよ。会場はエントランスから中まで泉谷氏の手作り一色!彼自身が紙とペンで丁寧に切り貼りし、来場者をもてなすという心意気が実に暖かく見事だった。

足を踏み入れた瞬間数々の作品に迎えられ、遠い昔大好きだった文化祭のわくわく感が蘇ってきたわ。リキテックスで大胆に描かれた作品も圧倒されたけど、泉谷氏が雑誌に投稿したマンガの原稿、そして「猫化粧」というオリジナルストーリーの構想の絵コンテを見た時、不思議なことに他人のような気がしなかったのよね。

画風も色使いも全く自分とは違うけど、紙から伝わってくる温度というか匂いが酷似していたの・・こんな事は初めてよ。鉛筆で描かれたコンテは実に繊細で美しく、泉谷氏にこんな一面があるのだと知り更に感動!

他にも『スペースコブラ』やアメコミに影響を強く受けたと見られる作品もあったけど、どれもこれもモダンで生き物のように線が息づいていたの。紙やキャンパスに描かれたものたちが「我慢できない!」と今にも飛び出してきそうな勢いなのよ。命の雄々しさ、生きとし生けるものの叫び、情熱の炎・・これこそが「泉谷しげる」なのだ!と洗礼を受けた気分・・この人は本当にアーティストなのだと痛感させられたわ。

しかも彼は孫の為に作ったうさぎと像のキャラ「うぴょうとん」のアニメも手がけ、自作の曲でPVまで制作していたの。手描きのキャラに簡単な動作をつけているだけなのに、生きてる生きてる!機材がどうのと理屈ばっかり並べるクリエーターの人は絶対見るべきかもしれないわね。

作品は作り手そのもの、生き様そのものであると痛感させられたわ。今回泉谷氏のエネルギーを直に受け、ピポ子の奥底でまだ眠れるマグマがふつふつと沸きだしてきた気がする。久々のこの熱い感じは何だ!?これはもしや・・触発泉谷熱なのか!うおお、みておれよ~!

100317.jpg井上洋介 / 個展「60年代エログロナンセンス」

赤いヒールのエロチシズム

外のガラス越しだとタイトルほど異様な雰囲気は無かったけど、一歩画廊に立ち入った男性がすぐに出てきたので、これは曲者に違いないと確信。中でじっくりと作品に向き合うと、そのパワーに納得させられたわ!

御年78才になる井上氏は「くまの子ウーフ」等の作品で有名な絵本作家なの。とても優しく暖かみのある線が特徴的で、可愛らしさの中にちょっと微量の毒を含んでいる作風と言わせて頂こうかしら。

今回はそんな彼の30年以上前の作品を集めた展覧会なんだけど、古臭さなど一切感じないしシチュエーションも現代的で、つい最近の作品と言われても不思議ではないの。油彩の作品は赤、緑、黄土色で構成されているのが殆どで、実に大胆。その他はペン、カラーインクで描かれており、その線から彼の感情が余すところ無く伝わってくる。

どの作品にも必ずと言って良いほど"赤いヒール"の女性が登場し、目玉がひとつしかない男性と抱き合っていたり、大きな手に囚われていたりしているわ。そして何故か包帯で体の一部を必ず巻いているのよ。赤ヒールは女性の美しさと艶めかしさを象徴しているけど、彼女たちは異形の男性達に傷つけられた体を庇いながら生きているのかもという解釈が生まれたわ。

どれも実にエロティックでパッと見ると誤解をしてしまいそうだけど、井上氏の女性を崇拝と慰謝の念を感じずにはいられない。大胆かつ繊細に、時には皮肉を交えつつ女性を愛するエネルギー・・女性が強くなったと言われる現代ではあるけど、その分傷を負っているのも確か。井上氏は現代に警鐘を鳴らすべくこの作品をぶつけてきたのかも・・だとしたら凄いフェミニストなのかもね・・素敵。

Art Review

ピポ子が体験した希有な作品群

2011
春希久 / 日舞
シェイクスピア / 舞台
江戸東京建物園 / 建築

2010 1-12
辻村寿三郎 / 個展
泉谷しげる / 個展
井上洋介/ 個展

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