Book2009_10

091022.jpg三津田信三

赫眼(あかまなこ) 2009年作品

忌まわしく美しいもの

小学校の頃って、美に対する憧れが徐々に強まる時なのよね。クラスの中にひっそりと存在していた、大人びた美しい面立ちの女の子・・彼女を見ていると自分の稚拙さが恥ずかしいような気になってきたものよ。どこか神秘的な雰囲気はこの世のものではない気がする時もあったわ。

三津田信三氏の「赫眼(あかまなこ)」という作品を読んだのだけど、そこに登場する美少女"目童(まどう)たかり"が彼女のイメージそのもので驚いたのよ。

主人公のたかりは、ずば抜けて美しい容貌を持つ寡黙な転校生なの。ある日学校を休んだ彼女に届け物をしようとクラスの少年が目童家を訪れると、その家は意志を持ったように禍々しく存在し、奥には得体の知れない何かが横たわっていたわ。そこから少年はたかりに囚われてしまい・・いうストーリーなの。

展開に大きな動きはないけれど、徐々に恐怖感が浸透してくる感じよ。魔を払う具体的な方法がいくつも登場するのだけど、凄くリアリティがあって恐怖に一役買ってる感じね。

ホラーというとどうしても劇的な結果欲してしまいがちだけど、この作品は曖昧にされている部分をうまく使って深層心理の中にある恐怖感を呼び覚ましてくれるから、ジャブのように後から効いてくるわ。そこが歯がゆくて良い感じよ。

文体も読みやすいし、濃い口のホラーが苦手な人には良いかも。読み終わって思ったのだけど、小学校の時クラスにいた美少女に感じていた得体の知れない感情はもしかして「恐怖」だったのかもしれないわ・・美と恐怖は常に同じ位置にあるのだと悟ったピポ子はもう十分大人かしらね?

091013.jpg花輪和一

不成仏霊童女 1993年作品

魂の指南書

学生時代、本屋の店頭で見かけてからずっと気になっていた作品があるの。それは花輪和一の「不成仏霊童女」。

匂い立つような独特の画風とどことなくドロドロとした質感に足を止めたことはあるものの、今まで読む機会が無かったの。でも今こうして出会ったというのは時期が来たからなんだろうか・・と思わずにはいられないディープな内容よ。

物語は不成仏霊の少女が現世を彷徨い、様々な人間の生き様を通して死後の世界を見据えるというストーリーなのだけど、妄執や因縁、自己犠牲などの人間臭さが見事に描かれているわ。監禁、老人虐待、いじめ・・現代でも今なお根強く続いている問題を古の日本を舞台で展開させているの。

逸作は多々あれど、お気に入りは「うさぎ橋」というお話よ。

毎日養父に虐待され続ける少女の心のより所はうさぎ。やがてその唯一の存在を酒代の代わりに売らなくてはいけなくなった少女は悲しみに暮れる・・という内容なんだけど、少女の心の動きが痛切に伝わってきて何度も泣いてしまったわ。

朝から養父に当たられた少女が、あまりの理不尽さについうさぎに当たってしまうのだけど、その直後「あの人の怒りがあたしにうつったんだ。気をつけなくちゃ」と反省する場面があるの。"人の念が人にうつる"・・それは私自身が普段から感じていたことなので、一層気をつけねばいけないと感じたわ。

ページを開く度、キャラクターの体温や息づかいを感じるのは花輪先生の念が込められているからなのね。長期の制作期間をかけて生み出されたこの"魂の指南書"・・今生で生き抜く我々を導いてくれること間違いなし!

Book Review

2009 10
赫眼 / 三津田信三
花輪和一 / 不成仏霊童女

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