宇野亜喜良(イラスト)
あかるい箱 2002年作品
友人のリリーは画家"宇野亜喜良"が好きで、彼が江國香織の物語の挿絵を担当した本があると言って貸してくれたの。
タイトルは「あかるい箱」。
宇野氏の絵はスタイリッシュな色気があるし、江國さんの物語も非常に強い内面世界を表現しているので"大人の絵本"と呼ぶべきかも。
物語は、ある新しいマンションに越してきた少女が体験する不思議な出来事が描かれているわ。少女は、父にも母にも見えない隣の部屋の一人暮らしの女性リリコさんと親しくなったの。彼女は別れた恋人をずっと部屋で待っており、その時の感情で部屋の中を吹雪にしたり南国の海にしたりしてしまう。
やがて少女はリリコさんと共に過ごす時間が長くなっていったわ。そして彼女は自分やリリコさん、大勢の住人達が己をこの空間に"自縛"していることに気付くの。抜け出る方法はひとつ・・待ち人からのコンタクトよ!確かに、少女はクラスメートの島本君からの手紙を待っていた・・というお話なの。
読み終えると、なんだか重たいものが引っかかってきたわ。確かに人間は何かを待ち続けている・・それはチャンスだったり、夢だったり、愛だったり。そうして年月を重ねても待ち続けているだけだと、いつしか己を縛り付けて動けなくしてしまうのも確かね。
自分がどう生きたいのか、その為にはどうするべきか・・自分の内面に問いかける為の自戒本と言って良いかもしれない。テーマは決して軽くはないけど、宇野氏お得意のポスターのような表現や、写実的でありながらデザイン的なラインや優しい色使いは物語を更に深いゾーンにまで誘ってくれるの。
リリーがフランスに絵の勉強に行く間この本を預かる約束をしたのだけど、この本が彼女の手を一端離れたのは、リリー自身が自分の人生を確実に切り開いているからなのかも・・ということは・・。