Movie 2009_01

090117.jpgザ・ロイヤル・テネンバウムス」

愛すべきパパの愛の形

映画を製作する上で大事なのが"キャスティング"!勿論それだけではないけれど、あまりにもピタッと全てがハマっていると思ったのは2001年公開の映画「ザ・ロイヤル・テネンバウムス」かしら。
前々から見たい作品ではあったのだけど、いや~見て良かった!

元弁護士だが今は流浪の生活をしているジーン・ハックマン演じるロイヤルが、妻が会計士に求婚されていると知り自分が余命僅かと嘘をついて、22年ぶりにテネンバウム家に帰ってくるの。

幼い頃からビジネスの天才の長男、養女であり天才劇作家の長女、トップテニスプレイヤーの次男と、変わり者だが優秀な子供たちとの絆を修復したいと思った彼はようやく父親らしい気持ちで家族に接する様になれたわ。次男は密かに長女を愛していて、彼女が結婚してからその思いを抑えて旅に出ていたものの、今回家族が一堂に会する事になりその気持ちを抑え切れなり告白するの。

それぞれの秘密を打ち明けて妻は再婚し、納まる所に納まった後父親は家族全員に送られる事になったわ。妻は1人で強く生きてきたけれど夫の愛が欲しかった、長男はいつも次男ばかりを遊びに連れ出す父親に"怒り"という形で愛を求め、次男は血のつながりはないにしても、幼い頃から姉を女性として愛し、長女は自分が養女であるという事で疎外感を持ち心から人を愛する事に不慣れ、・・・家族の誰もが愛が欲しくてたまらなかったのね。

父が長男の子供たちにいたずらや子供らしい遊びを教えるシーンや、長男が子供時代を取り戻すかのように父と一緒に遊ぶシーンは脳裏に焼き付くほど印象的で素晴らしい!

家族愛をテーマにした作品は数あれど、これほど切れ味の良い描写は他に類を見ないわ。一つ屋根の下に居ながら家族の事は何も知らない父親・・ありがちな設定だけど、その子供たちが10代で天才の称号を得たゆえに、堕落して行く父と、子育てを誤ったと自己を振返りながらもどこまでも真っ直ぐな母。家族の結束は結局、ある種の愛でどんな事があろうとも結ばれているというのがこの作品のテーマかしらね。

長男を演じるのはベン・スティラーなんだけど、さすが!よくそんな表情が出来るものだと感動したわ。キャラクターは全員幼い頃から服装が変わってないし、背景がリアルなんだけど切り絵のようで登場人物も2次元的に感じさせる演出手法、とても小気味よいおかしさがあるのに、心の奥底にズーンと染み入ってくる暖かさがあるの。最早コメディと言えないわよ!役者の力は勿論だけど、こんな怪作を作ってしまった製作側の次作へのプレッシャーは相当なものではないだろうか・・・恐ろしい。とにかく、超オススメの作品よ!!!

imgea499cd0zikazj.jpeg「北斗の拳」(1983年劇場版)

ラストにShock!!・・編 

「北斗の拳」・・・それは若かりし頃衝撃を受けた硬派でバイオレンスな大作よ。当時、その恐ろしいほどの作画力と物語のスケールの大きさに圧倒されたわ。ただこれほど原作が出来上がっていると、アニメ化された時このクオリティが保てるのかと心配したのだけど、その不安は的中・・・結局テレビシリーズは途中まで、映画は見ることもなく十数年過ぎてしまったの。

今の自分ならどう感じるだろうかと思い立ち、丁度最近DVD化された1983年最初の劇場版「世紀末救世主伝説・北斗の拳」を見ることにしたわ!原作を再構築してある為ストーリー的には綺麗にまとまっているのだけど、主人公ケンシロウと強敵ラオウを引き分けにしてしまったラストはイマイチ!公開当時はケンシロウが破れるという見事なラストだったらしいのだけど、レンタル用DVDでは健康的なラストになってしまい愕然よ。

でも透過光を光らせながら立つキャラ、荒いタッチの斜線で描かれた背景・・・現代の様にコンピューター技術が発達していなかった時代、この世界観を表現する為に王道ではあるけど、ありとあらゆる手法が用いられていて苦労の跡が見える気がする。物語は核戦争で荒廃した地球が舞台・・・北斗神拳の伝承者ケンシロウが、最愛の女性ユリアを南斗弧鷲拳のシンに奪われてしまい取り戻しに行くというものなんだけど、北斗神拳を伝承したくても出来なかった兄弟子のジャギ、ユリアの愛だけが欲しかったシン、北斗も南斗も関係なく天を手にしようとしたラオウ、妹を救うためだけに戦う兄レイの人間らしいドラマが良く描かれていたわ。

どうしても秘孔をついたケンシロウの「おまえはもう死んでいる」という名台詞や人体を破壊された悪党の「ひでぶ!」などの断末魔が取り上げられがちだけど、今作はその部分が誇張されていなくて良かった。ベテラン声優の神谷明や内海賢二、大塚周夫などの演技力はさすが!であるけど、やはり千葉繁の断末魔は絶品よ。

最近では、東映の手を離れて新たな作品が次々公開され、ケンシロウとユリアの結"魂"式が行われるという粋な企画もあるの。原作に忠実な作風になっているし、各キャラに焦点を絞った構成になってるそうだから見てみたいわ。ただ・・・今作もそうだけど、音楽の重要性について今一度考えてもらいたいなあ。作品を生かすも殺すも主題歌ひとつなんだから。

結局、初代のクリスタルキングが描き出したあの音を超えられないんですもの。"Youはshock・・・"今聴いてもはまります。

090114.jpg「ナポレオン・ダイナマイト」

ダイナマイトな心の輝き

以前「電車男」という日本のドラマがヒットし、その流れを汲んで邦題に「バス男」という愚かなタイトルを付けられてしまった名作「ナポレオン・ダイナマイト」!ちなみに、バスは何ら物語の主題ではありませんから・・。サンダンス映画祭で絶賛された作品ね。

こんな作品を作れるなんて・・・正直凄く悔しいわ。

アイダホの田舎町に住む少年ナポレオンは、絵を描く事が好きだけど常に半口を開けてボーッとしているダサ男君で、引きこもりでチャット好きの兄と暮らしているの。学校ではいつもいじめられている彼・・・でもメキシコから来た変わり者の転校生のペドロと意気投合し、彼の生徒会長選挙の手伝いをする事に。

その間、ナポレオンの外見でなく内面の誠実さに魅かれる女生徒が現われたり、兄の恋の成就など、ナポレオンが自分の中の可能性を見いだした事で、己だけでなく周囲も変化が起こって行く・・という徐々に「染み入る」お話よ。

全体に脱力的な展開でアメリカの田舎力が主人公の素朴なパワーの背景になっているのがよく分かるのが凄いわね。ストレートな人間模様がちょっとした味付けで、より際だっているので見る側にダイレクトに入ってくるの。

役者は皆ブリガム・ヤング大学の卒業生という当時無名の役者ばかりなんだけど、ナポレオンを演じたジョン・へダーはどこからどう見ても見事な"ヲタ"で、半開きの唇や言い訳の仕方、ノートに絵を描く姿は昔から"そうであったとしか思えない"の!

しかし彼の宣材写真を見ると、全く別人と言って良いくらいの美青年・・演技力があるって犯罪に近いかも。淡々としたトーンで統一された背景に、あくまで自然体にこだわった細やかな作り込み、"居そう"と思わせながらも確立されてるキャラクター・・ほのぼのと見せておいて、ガッチリつかまれてしまったわ!

学校内でいじめっ子が彼を見るなりいきなり羽交い締めにしたり、給食の残りをポケットに隠して授業中に食べたり、授業を無視してノートに落書きなど、懐かしい出来事が"超自然"に描かれているというのが視聴者をこの世界に引き込む大きな要因なのだと思うの。

日本では劇場未公開なので、ギチガチの"作られた演技"を良しとする日本では理解出来ないと思われたのかしら?・・制作費がたった400万でも、有名俳優が出ていなくても、物語がしっかり作られていればこんなに面白い作品が出来る・・!ジャレット・ヘス監督はこの後に、あの「ナチョ・リブレ」を発表したのね!改めてレベルの違いに圧倒されたピポ子でありました。

090106.jpg「おかしな2人」

サイモンの小粋なエッセンスこそ今必要な世の中かも・・

1968年ニール・サイモンの名作「おかしな2人」。NYを舞台に、料理に掃除にと主婦を超えた主夫で妻から離婚された潔癖&完璧主義のフィリックスと、不潔感満載のスポーツ記者でこれまた妻から縁を切られたオスカーとの共同生活の中で、人間関係を詳細に掘り下げて行くサイモンお得意の世界。

しかし・・・41年も前に発表されたという事が信じられない程、小粋でエッセンスの利いた作品なのよ~。"センスがある"というのはこういう事なのね!どこかのドラマのように状況説明をセリフに織り交ぜたり、無意味なシーンがとってつけられたりなんて事は全くなく、音楽のように心地よいテンポで進んでいくの。

シェイクスピアも対極的な人物設定で物語を単純化して主人公の背景を深く洞察するけど、サイモンも同じ。ただ違うのはシェイクスピアの対極は善と悪、戦争と平和、権力と民衆など歴史的二面性、サイモンは個人の人間的二面性かしら。どちらも突き詰めると同じかもしれないけど、そこに愛が絡まって永遠のテーマになるのかしらね。

サイモンの面白さは主役以外の人物設定がやたらと可笑しいのよ。他人の悩みは何でも解決できるけど自分の事は何もできない精神科医や他人に厳しく自分に優しい警官など、仕事とプライベートの対比も巧みに折込んでるから凄いわ。

最近は過激なコメディが多いから、ほのぼのとリラックスできる暖炉のような優しく心地良い温もり感のある作品が少ないのが残念ね。

090105.jpg「愛しのローズマリー」

心眼で感じる本当の美人

あぁ・・・私ってこんなに太ってるし、可愛くないし・・・。そんな風に自分の容姿にコンプレックスを持つ人は沢山いるわよね。ルックスがいいからお仕事がもらえた、お金持ちと結婚出来たなんて言うお話は日常茶飯事だし、美人なら特典は数限りなくあるもの。

どうせ私は・・・といじけた気持ちになった時、是非この映画を見て!ピポ子の大好きなジャック・ブラック主演、2001年作品の「愛しのローズマリー」よ!!

J.B演じるオデブな青年ハルは、外見だけで女性を判断するたわけ者。ある時有名なセラピストから"人間の内面がそのままビジュアルとして見える"催眠術にかけられるの。やがて彼は超細身で美人のローズマリーと出会い、一目惚れするけど、彼女は自分の容姿を気にして恋に臆病になっていたわ。なぜならハルには超細身美人に見えるローズマリーは、実際136キロの肥満女性だったからなのよ!

ストーリーやテーマは勿論だけど、映像的にハルの視点と現実世界がうまく交差してそのギャップが面白いわ。外見が美しくても内面がギスギスしていれば老婆のように見えるし、外見がイマイチでも内面が美しければモデル級の美人に見える・・・結局現実世界では外見が重視される事が多いけど、果たして皆が皆外見にこだわって幸せを掴めるかというとそうではないわよね。

人間同士の"心"が通じ合えば年齢も性別も関係ないし、人それぞれの個性や生き方が魅力であり最大のセールスポイントだったりするもの。この作品を見ていると女性として共感出来る部分が多く、見終わった後に前向きな気持ちになれるわ。

ちょっと芽生えた嫉妬心も鎮静。宇宙人からしてみれば、地球人の美醜なんて関係ないのと同じよね。まずは、なりたい自分になる!そこからだわ。私は夏木マリ・・夏木マリ・・むむ。

Movie Review

2009 1
ザ・ロイヤル・テネンバウムス
北斗の拳(1983年劇場版)
ナポレオン・ダイナマイト
おかしな2人
愛しのローズマリー

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