Movie2009_04

WATCHMENWATCHMEN

沈黙は・・・

この作品は色々な意味で興味津々の映画だったの。まず、グラフィック・ノベルであのヒューゴ賞を授与されてる事。映画化の企画構想に20年以上費やし、この世界観を2時間で映像化するのは無理とされ、その間権利もあちらこちらに移り、結局法廷にまで持ち出された事など・・・気になるわ!原作者のアラン・ムーアは未だに映画化に異論を唱え、今回もクレジットを拒否し原作作画のデイヴ・ギボンズに印税権利を委譲、彼曰く「WATCHMENを映画的だというが、それは間違い・・・まったく正反対の作品」だとか。

そして遂に作品が完成し、そのお披露目に立会わさせて頂いたわ!

まだ公開前なので、物語の核心はここでは言えないけど、一言で表現するなら、『沈黙の黙示録』でしょう。ここに描かれているのは単純なダークな世界と言うものではなく、人間の定義、神の定義、生きている意味、気付かない地獄、進化と心・・・等々、パラレルに入組んだ人間の業を3時間に押込めているわ。

物語のベースは平行世界的次元で現実に起きた、ケネディー暗殺や米・ソ連の核ミサイル危機、ベトナム戦争等を背景にし、そこにアメコミ的なヒーロー達が登場するのだけど、一般的な善悪二元論で活躍するのではなく、横軸として彼らの立場や意識を通して"人の業"が描写され、縦軸として神的な哲学・自然が表裏一体しながら複雑な景色を作り出してるの。

もし地獄を描くとしたら、怖く醜く表面的な部分を露出させるのはとても簡単な事だけど、そこに至るまでの過程を作品にしろと言われたらかなり難しいと思うわ。映画化は勇猛果敢にも短時間でこの世界観に挑戦する訳だけど、それを請負った監督があの「300」で独自の絵画的映画を低予算で作ったザック・スナイダーよ。

「300」でもフランク・ミラーのグラフィック・ノベルを映画化で大成功させた逸材だから当然の帰結だったのかもしれない。残酷的(血みどろだけが残酷ではない)な描写も多いけど、この描写を否定すれば"人間の持つ非道徳的な哀れみ"とでも活字で表現するしかないわね。つまり、自己矛盾が生じる訳だから・・・。前作で使われた技法も「WATCHMEN」でもさらにレベルアップしていたわ。

そして、映画化困難の最大の理由とされたのが、複雑なエンディングとその映像化への予算と言われてきたわ。確かに見終わって3時間でよく納まったなと感心、いや同情!?。この物語の背景はコミックの場合、その質感から読者が100万倍に想像力を膨らまし自分の網膜だけに投射されたるのだろうと・・・だから、原作者のアラン・ムーアは上記のような発言をするのだろうと確信したわ。

動画は見るものをその世界に引きずり込む事ができるけど、創造性が欠けてしまうのも事実。その欠落する創造性をどうやって覚醒させるかが監督の力量だけど、今回スナイダーは頑張ったわ!! 今、この文章を読んでも物語があまり把握出来ないと思ったあなた!そう、そう言う作品なのよ~。だからこそこ是非劇場でご覧になる事をオススメするわ。来週の3/28から公開ですから!

-WATCHMEN 公式サイト-
http://www.watchmenmovie.co.uk/intl/jp/

グッド・ウィル・ハンティンググッド・ウィル・ハンティング

経験から生まれるもの

タイトルは知っているものの、どんな内容だったっけ・・・?という映画作品は数あるわ。1998年の「グッド・ウィル・ハンティング」もそのうちのひとつよ。

主演を務める若きマッド・デイモンとベン・アフレックが脚本を担当し数々の賞を受賞した事でも有名だけど、内容的にも"人間として思い当たる部分"が良く描かれていてハッとさせられる作品だったわ。

マサチューセッツ工科大学の数学教授ランボーが生徒達に数学の難問を出題した所、その難問をすぐに解いてしまったのはなんと清掃のアルバイトをしていた青年ウィル!しかし彼はその才能を生かす事なく仲間とつるんでケンカばかり。彼の才能に惚れ込みその行動の裏には何か原因があると考えた教授は、彼を一流のカウンセラーに委ねるもことごとく粉砕されてしまい、最後の手段として、ロビン・ウィリアムス演じる学生時代の友人で心理学者のショーンに彼をゆだねる事にしたわ。

高額な授業料を納め当り前のように学べる環境にある学生達、一方孤児で貧しい環境に身を置き、その非凡な才能を生かし切れないウィル・・・彼は仲間とつるむ楽しさを味わいながら、何かしらのもどかしさを常に抱えている。そして数学教授ランボーは輝かしい功績や地位を持ちながらもどこかで自分が持ち得ない才能に嫉妬し、ショーンは愛する妻を失い心に扉を閉ざしていたもののウィルと向き合う事で、未来に歩みを進めようとする・・・それぞれの立場や環境、心の中とのコントラストが見事に表現されていて、ピポ子自身思い当たる事がちらほら。

人間誰しも人に嫉妬したり、優越感に浸ったり、恵まれた環境にいるのに気付かなかったりするわよね。でも人と向かい合い、愛したり悩んだり楽しんだりといった経験をする事で初めて"生きる"という事に真剣に取り組んでいけるのかもしれないわ。

マイナス同士がぶつかり合ってプラスになり、プラスはプラス同士魅かれあい増幅して行く・・・人間ってなんだか良いかも。折角生まれたのなら何かを残したいなぁ、と自然に思えてくる嫌味の無い作品よ!凹んでる人にはじんわり浸透するかも・・・。

グリーン・マイルグリーン・マイル

1$の絆

監督のフランク・ダラボンと作家のスティーブン・キングは非常に強い絆で結ばれているのを皆さんご存知かしら?

ダラボン20代の頃、キングの短編小説「312号室の女」を是非短編映画として撮らせてもらえないでしょうか? と手紙を送ったところ、その感受性の深さにキングは1$で独占の映画化権利を彼に与えたんですって!

その後、「ショーシャンクの空に」で大成功(この映画化権利も1$)し1996年作品「Green Mile」に至るの。もちろんこの作品も映画化権利は1$なのよ(配給報酬は別として)。それだけ、キングはダラボンに対して自分の人間描写は彼しか表現できないと確信しているわ。そんな相性の良い二人の作品はどうであったか。

背景は米1930年代の大恐慌時代、南部ルイジアナ州刑務所のトム・ハンクス演じる慈悲深い死刑担当官と、少女二人の殺害容疑で有罪となったコーフィ(マイケル・クラーク・ダンカン)という奇跡を起す力を持っている身長2m10cmの死刑囚の関係を軸にした3時間の長編物語なの。

30年代の南部と言えば、人種差別は日常茶飯事で特に黒人に対する偏見は凄まじく、ここに登場する巨漢のコーフィ(暗闇を怖がりいつも目に涙を浮べ、子供のような一面を持つ)も白人が恐れたモノの象徴として位置付けられているわ。

一方、ハンクスの役柄は典型的な模範的アメリカ人で、その慈悲深さゆえのジレンマが核となっているの。ハンクスは本当にこの男が罪を犯したのか疑問を抱き、やがて執行官としての義務と人間としての在り方の狭間で葛藤を強いられる。

ミステリーという一面、死刑制度や奇跡、人種問題など見る側を考えさせられる内容になっているけど、それぞれの課題に対してメッセージ的な部分は折込んでいない。死刑執行に手違いがあった時の痛ましい場面があっても淡々と物語は進み、制度そのもに反対・賛成を感じさせる意味合いも含まれないの。

これはダラボン監督の問いかけ的作品と受取れるわ!

刑務所という場所にコーフィが与えるインパクトがこの作品の見どころで、キングの人間描写がダイレクトに映像化された部分だけど、閉ざされた空間の中で彼の存在そのもがこの答えなのかも。

自身も意識していないコーフィの不思議な力は、他人の痛みを感じ奇蹟を起すのよ。それはあたかも天使のような存在に近いのかもしれないわ。物語が進むにつれて彼の心髄が分かってくるのだけど、ただ、どうしても大げさすぎる演出が全体の輝きを鈍らせてしまっているのよね。これが見るの者の考え方や、人間に対する理解を見失ってしまう味気のないものにしてしまった。

だけど、それを差引いてもハンクスの演技や、セリフの間、原作の持つキングの描いた人間味など素晴らしく見ごたえのある作品に仕上がっているわ。そして、このコーフィを演じるマイケル・クラーク・ダンカンには圧倒よ。彼なくして「The Green Mile」の成功は無かったかもしれない。優しい心を持ち、外見とは正反対の人物を力強く演じ、この衝撃はハンクスを凌いだわ。

また、米作品にありがちな“素朴で気高い黒人が白人に何かを教える”という含みも無く、個々の人の心を洞察した点も評価できるわね。

ちなみに、タイトルのグリーン・マイルとは死刑執行室に続く緑の廊下なんだけど、コーフィはその廊下をまばゆい奇蹟の光で満たしてしまうの。慈悲に映る心の世界は、テーマよりも感覚的な感動物語として語り継がれていくに違いない!ダラボンとキングの1$の絆がスクリーンを染め抜いていたわ。

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