Movie2009_11

091024b.jpg「ANVL(アンヴィル)」

愛なくして語れない実話

舞台は1984年の西武球場でのロックフェス。ホワイトスネイク、スコーピオンズ、ボンジョビらと共に若き頃のANVILが・・・一転、給食配達をするボーカルのリップス、建築現場で掘削するドラムのロブの今の姿に。彼らは大好きな音楽を続ける為なら苦ではないと、笑顔でがむしゃらに働いていたわ。

休暇を取って欧州ツアーをするも・・実入りは無し、ギャラを支払わないツアー先のハコの主人に「ギャラをよこせ!」と鷲づかみ・・・ついてないことばかりでも新曲作りを続けていたANVIL。何故今まで売れなかったか原点に帰り、それが一番重要である「音」だと言うことに気づくのよ! 

そこでデビュー時のエンジニア&プロデュースだったクリス・タンガリーディズにデモテープを送るの。そして、意気込みのある音に、アルバム制作費を込み込みで200万を提示してエンジニア&プロデュースを引き受けるのだけど(ちなみに、クリスを起用して200万の制作費はバカ安な値段)、今のANVILにとって200万は大金!

リップスは稼ぎの良いテレアポのバイトに挑むも、自分が実直な性格であることに気付いてしまい断念・・・これがドキュメントよね。ヘビメタ系は破壊的で攻撃性が強いと思われるけど本人たちはとても繊細。

資金のめどが立ちイギリスのクリスの元でレコーディングがスタート・・でも、リップス、ロブはぶつかり合ってしまうの。そのやりとりを見ていて号泣したわ。現場でぶつかるのは当たり前だしだけど、彼らのやりとりを見ていていかに信頼し合い、運命を共にする覚悟が出来ているのかが見えたから・・。

魂のこもった原盤が完成したけど、ここから先が大変。そして、日本が彼らにとって重要なキーワードになっていくのよ。

091024.jpg一時、華やかなステージに立っていた彼らがこうして働く姿を見せてくれている・・本当なら見せたくないだろうけど、ガバシ氏だからこそそんなメンバーの自然体をとらえられたんでしょうね。日本なら、30代過ぎてもこんな活動をしていると「食べていけないんだから、いい加減夢を見るのはやめたら。」と家族や周囲から言われ、はみ出しもののレッテルが貼られるのが常。

そのうち本人もそのプレッシャーに押され、世間の流れに乗らなくてはいけないと思うわ。でも彼らは自分たちの信念を貫いているから、家族も応援してくれるし、反対する家族も大事にしている。だから今回のように50代にして再び脚光を浴びるという現象が起こるべくして起きたんだわ!

リップス、ロブの2人は恋人、家族、兄弟を超えた縁で結ばれている!何だか凄く羨ましい・・人間としてそれだけ深く関わり合えるのだから。家族関係以外にも音楽ビジネスにおいてのやり取りがリアルに見えて興味深いシーンが沢山あったわ。80年代からメジャーリリースにこだわっていたANVIL・・でも"リスナーに音を届ける"という原点に気づき行動したしたことが彼らの望む方向へと進めたのよ。

日本のプロモーターからの出演依頼、サンダンス映画祭でオーディエンスからの評価と彼らは時間をかけてゆっくり成功を手に入れたの。今回の成功で何が嬉しかったかという問いに、リップスは「音楽以外の仕事をしなくてすむのが嬉しい」!!!この言葉・・この言葉の重み!何も言うことはない!!全編通して思ったのは、彼らの顔が本当に美しいという事。どんな状況だろうとも今より悪くはならない、なったとしてもそれは運命。

だからこそ今、大好きな音楽をやり続け、自分の作品を作り残そうという意志が全身から出ているからなのでしょうね。これって悟りの境地に近いと思うわ。音楽ファンだけでなく、世の中で戦う誰しもがこの作品を見た日から意識が変わるでしょう。

ガバシ監督はもとANVILのローディで15歳の頃から共にツアーに回っていたの。その後、脚本家としてスピルバーグ作品「ターミナル」で成功をおさめた彼は、20年後のANVILとコンタクトを取ったのよ。きっとそれは"必然的"な再会だったのね・・・。

ありのままの生き様を見せてくれたANVIL、本当に有り難う!そして彼らの内面を見事に映し出したガバシ監督有り難う!大きな大きな愛をたっぷり受け取りましたよ。"好きだからこそ貫く"・・・その姿勢が人を動かし心をも動かす。これがすべての原点なのだと気付かされたわよ。今まで見たドキュメンタリー作品の中で最高よ!1度しか無い人生・・・「アンヴィル」を見ずして映画を、音楽を、生き方を語るべからず!

091024c.jpg-Thanks! -
公式パンフレットも、デザインがシンプルで一見アートブックのようよ。B4というサイズの中で、彼らの等身大の素顔が生き生きと浮かび上がっているのも凄く良いわ(サインまで頂いてありがとね!リップス&ロブ様)。

091121.jpgゴッドファーザーPart1

家族の証明

言わずとしれた1972年フランシス・F・コッポラ監督の名作「ゴッドファーザーPart1」・・恥ずかしながら、幼少の頃からずっとこの作品をマフィアの抗争を描いた男の物語という認識しかなかったの。

しかし大人になってじっくり見てみると、この作品の真のテーマは"家族愛"であり、台詞や演出、役者の素晴らしさに度肝を抜かれ、どれだけ人々に多大な影響を与えた逸作であるかという事を思い知らされたわ。

しかも登場するファミリーの構成は現代の会社の人員配置にも当てはまり、ビジネスモデルとして見ても充分に楽しめるの。舞台は1947年のNY。マーロン・ブランド演じるマフィアのドン、ビト・コルレオーネが、末娘の結婚式が盛大に行われる中、いつものように訪ねてきた友人の嘆願に耳を傾けるところから物語は始まるの。やがて対立するタッタリア・ファミリーとの抗争が勃発し、ビトは凶弾に倒れるも一命を取りとめたわ。

大黒柱が不在になって揺らぎ出すコルレオーネ・ファミリー・・ドンの方腕で頭脳明晰な弁護士、感情のままに行動してしまう長男、しかし最もマフィア社会を敬遠していたアル・パチーノ演じる三男マイケルがファミリーを仕切るという皮肉な結果になるの。でもそれは彼が本当に父親を愛していたから。妹の結婚式で恋人のケイと楽しそうに話していたマイケルが、父の為にそしてファミリーを支える為に冷酷非情に変化していく様は圧巻!彼の顔についた痣が心境の変化と共に無くなっていくという描写もお見事よ。

そしてドンの依頼を断った映画監督の愛馬の首がベットの中から発見される名シーンは恐怖と言うよりアートを感じたわ。当時のフィルムの劣化の影響で画面全体が良い感じにべたっと油絵の具を塗った様な質感になっているけど、最近発売になったリストレーションBDでは元の鮮やかな色に修復されているんですって。逆にべたっとした質感で感じていたものが鮮やかになったら更に重く感じるかも・・見てみたいわ!

日本では大家族も減少し、家族自体の絆が希薄になっているような気がするけど「ゴット・ファーザー」を見ていると、血の繋がり関係なく自分をすがってくる者に対し愛を注ぎ込むという姿勢は見習いたいもの。それも奢り無く、気高くスマートにね。でも根底には大きく深い愛が存在しているのが前提だけど・・。

しかしながらマーロン・ブランド、この役を演じるために生まれて来たのか!?当時48歳でこの幅の広い演技、驚愕としか言いようがないわね。3時間近い大作でありながらあっという間に終わってしまったわよ。

091107.jpg恋愛小説家

おひとりさまのままでいい・・?

1997年に主演の二人(ジャック・ニコルソンとヘレン・ハント)がアカデミー主演男優・女優を受賞した「恋愛小説家」。

マンハッタンのアパートに暮らすひとり者の売れっ子恋愛小説家メルビン。彼の恋愛小説は甘く優しい愛の言葉に満ちていたけど、実生活は人間嫌いで潔癖症の嫌われ者なの。他人に気づかうことなどまったく意に返さない毒舌は行く先々で被害者を生み出す始末。彼の隣に住むゲイの画家サイモンも愛犬バーデルをダストシュートに投げ込まれた被害者よ。そして唯一彼をあしらうことのできるシングルマザーでウエイトレスのキャロルは、再婚を考えてはいるが息子の病気が気がかりで、いつもチャンスを逃してしまう。しかしそんな彼にもやがて恋心が・・という物語よ。

映画でありながらまるで舞台を見ているようなシチュエーション、画面に映るだけで妙な重量感を漂わしてきたニコルソンのある意味新鮮な不気味さ。"シャイニング”顔が物語が進行するにつれて何ともキュートに見えてくるのが良いわ。そして、何気ない動きがとてもナチュラルが見事なヘレン・ハント。母であるけど女でもありたい、その心情が要所要所に見え隠れする見事さ・・・。これじゃあ、アカデミー受賞というのも当然じゃないかしら。

最近"おひとりさま"という言葉をよく耳にするけど、メルビンもこのパターン。

自立が出来ている、自分のペースで生活している事に満足しているから異性などにかき乱されたくない・・でも本当は誰かと暖かな関係を築きたいと思ってるのよ。ダスターシュートに投げ込んだ犬のバーデルを一時預かることになった時、初めて自分以外の存在を身近に感じて愛情を注いでいく姿は感動的。

不器用ながら、人を愛そうと努力する様は母性本能をくすぐられてしまったわ。だからこそ母さんモード全開のキャロルはその"変わり者"に惹かれていったのかも・・。女性の大半は男性に頼りたいしリードしてもらいと思うもの。でもその反面こういう不器用さが垣間見えると"萌え"るのかもね。

明け方二人が散歩をするシーンがあるのだけど、ここが一番素敵だなと思ったの。ただ話をしながら誰もいない早朝の町を歩く・・でもこれだと何だか変だから理由をつけよう。「じゃ~、パン屋が開くからパンを買いに行くという理由はどうか?」どんな時間であっても会って話をしたいと思うのは恋愛が始まる時のSweetな衝動、でもそんな事を照れくさく感じるから理由をつけようなんてなんとBitterな台詞!これほど純粋で小粋な演出がかつてあっただろうか・・いやあ、ノックアウトです。

惚れたはれたが苦手な人、おひとりさまを楽しんでいる人、どうして相方が見つからないのかと悩んでる人、是非この作品で"自分カウンセリング"してみて下さい。何かが見えてくると思うわよ!

Movie Review

2009 11
ANVIL(アンヴィル)
ゴッドファーザーPart1
恋愛小説家

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