Movie2010_02

100130.jpgDr.パルナサスの鏡(2010)

醜い自分をもっと好きになる

その衝撃的な個性にノックアウトされてしまった名作「未来世紀ブラジル」の監督、テリー・ギリアムの最新作「Dr.パルナサスの鏡」。

お話は以前に悪魔との賭で不死を手に入れたDr.パルナサス。その代償として自分の娘を16歳の誕生日の日に悪魔に捧げないといけない。何とかそれを避けたい博士はある行動に出る・・!という物語よ。

主役の博士から命を助けられる商才豊かなトニーを演じるのが、今は無きヒース・レジャー。撮影中に他界してしまったので、未完成のままでお蔵入りかと思われていたけど、友人でもあったジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人の協力で別世界のトニーを演じる事で無事作品は完成。違和感ない仕上がりになってたわ。ちなみに、彼らはギャラをそのままヒース・レジャーの娘に寄贈したとの事よ。ヒースは本当に役者として、人間として愛されていたのね・・素晴らしいわ。

あの「未来世紀ブラジル」ではフィルムをスタジオ側に散々いじられ結末まで変えられてしまい、作品の持っていた本来のテーマが伝わりにくいまま公開・・ご立腹のまま「映画制作が嫌いになった!」という状態に陥ったギリアムが送り出した今作。期待を裏切らないその独特の世界観にまんべんなく酔わされたわ。

ベースにはパルナサス博士の一人の人間の本音部分(欲)と、家族を持った後の母性的な部分(愛)があって、その欲に絡みつくコミカルな悪魔が博士の心を通じて様々な人間の本性をえぐり出すのよね。その描き方がギリアム・ワールドなのよ。

それを表現するのに大きな役割を担っていたのが、お話の核となる旅芸人Dr.パルナサス一家の移動式旅小屋。見せ物小屋的で一見楽しそうだけど、どこかもの悲しい部分や暗の部分が背景にペーストされてる。そのギミックな作り込みがギリアム・ワールド。

衣装や小道具、メイクも一見ヨーロッパのクラシカルなデザインなんだけど、よく見るとモダンなの。中でも日本の着物とドレス生地をうまくコラージュしていたり、僧侶が舟形鳥帽子をかぶって登場したのには驚かされたわ。色々な個性の強い要素が含まれているにも関わらず、それがひとつの世界の色合いとして成り立っているのよね。このセットデザインの混沌さがギリアム・ワールド。

そして、その混沌さが登場人物のそれと上手く対比してるのよ。酔っぱらいから色情婦人、えせヒューマニストからイブ的快楽・・。タイトルにある『鏡』はそれらを増幅させるアンプのような存在で、醜い自分をもっと好きになるというブラックなユーモア・・これこそギリアム・ワールド。

そんな世界観で終始登場する悪魔を演じるのが歌手としてピポ子の崇拝するトム・ウェイツ。本人のキャラをそのまま出し切って一癖も二癖もある"はまりすぎキャスティング"ね。トムが普段から表現している世界にに見事シンクロしてる。でも、ここでの悪魔は結構愛があるのよ。自分が楽しむ余興の世界を演出してるの。これまたギリアム・ワールド。

そしてその結末は・・やっぱりギリアム・ワールドでしたよ。

役者陣もとにかく大健闘!博士の愛娘を演じたリリー・コールは『マーク・ライデン』の画集からそのまま抜け出たよう。改めてキャスティングの重要性というものを思い知らされたわ。

この世は常に相対するものがありシーソーのように作用するから、生きる事に意味がある・・一見摩訶不思議で美しい世界を見せているかと思いきや、人間の内面をまたもやズルズルと引きずり出したギリアム監督!やってくれましたね!

091226.jpgラブリー・ボーン(2010)

天国への階段

「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督の最新作「The Lovely Bones」。原作は近年の世界的なベストセラー小説として有名なアリス・シーボルトの「ラブリー・ボーン」。

物語は1970年代、衝撃的な14才の少女スージーの殺害から始まるの。平和だった家庭は徐々に崩壊し始めるのだけど、その様子を天国のような場所から見守るスージー。そしてそのスージーが本当の天国へたどり着くまでの過程を幻想的な映像を中心に描かれるのよ。

「天国に行ってからのお話・・」というコピーだけど、物語では現世と天国の中間的な世界、ダンテで言うなら煉獄的な要素もあって、天国一歩手前のような空間なのかしら。

まだ公開前なので、物語の詳細は言えないけど、ジャクソンの言葉を借りるなら「原作の親なら誰でも持ってる最悪の恐れ、それは子供を失うこと。それが結局は愛が人を救うパワーを描くお話へと変わる。だからこの本は多くの人々をひきつける・・」。だからこの映画は文面だけだど悲しくてショッキングだと感じてしまうかもしれないけど、とても明るい作品なの。

彼女がさまよう世界・・それは次のステップへ進む準備が出来るまでの修行のような場所なの。現世に思いを残し、生々しい感情をあらわにして自縛してしまうか、愛を信じて旅立つか・・。映像的にはシュールでマジカルな彼女が現世で経験したものが特殊効果でアイテム化され、心の有り様がダイレクトに情景化されている。環境音楽のパイオニアのブライアン・イーノの音楽と響き合い、それは時には心地よく、時には寒々とするの。

現世では、彼女を殺した異常殺人犯と愛する子供を失って翻弄する両親と、成長するスージーの妹と家族を再生させようと頑張るおばあちゃん(スーザン・サランドン)が描かれているわ。

怖いのは殺人犯の描写よ。名優のスタンリー・トゥッチが演じるのだけど、監督曰く「真の恐ろしさは示唆されるもので目には見えない暗に分かっていた」。この役のオファー後に犯罪プロファイラーと協力して、極秘の犯罪者の自白映像を見たり、文書を見たりと、普通らしさを利用して自分の心を闇を隠す犯人を見事に演じているの。その犯人の家の様子も、陰気で物寂しい緑色を使って、殻にこもった精神病質の感じを演出してるわ。

そして、主役の少女を演じるシアーシャ・ローナン。死後の世界で感情のままに演じる様は凄いわよ。合成部分が多い映画だけに撮影時は全て想定の元に演技するのだもの。オーディションに時間を割いて素晴らしいキャスティングをしたんじゃないかしら。

そう、現世のテイストがどこか「アメリカン・ビューティー」と似ていて、気になってSTUFFを確認したら、やっぱりデザイナーが同じ人だったわ。あの薔薇の感じ・・ゾゾっときたのよね。憑依的な描写も斬新!!

そんな感じで、現世と中間的な世界をシュールにつなぎながら、怒りと恐れ、そこからの脱出して欲しいと見る側に期待させながら物語は進んで行くの。そして、最後にある奇跡が起こるのだけど、それは劇場で確かめてね。オススメ作品よ。

映画の技術的な進化では、新しいシーンの準備の待ち時間に、数日前の撮影分を現場でPCにて編集したそうよ。作品を撮り終える頃には大部分の編集が終了し、撮影にリズムが保つ事が出来て良かったとの事。後日のスタジオの編集では、更にクリエイティブな部分に徹する事ができたそうよ。ちなみに、カメラはあのRED ONEだったわ。

最後にジャクソン監督から日本の皆様へというメッセージを追記しましょう。

『私がこの映画を撮ったのは、原作の独創的な世界観と全ての登場人物の心の動きに、魂を揺さぶられたからです。この映画はショッキングな題材を扱っているため、ご覧になる皆さんに深い悲しみと喪失感をもたらす事があるかもしれません。しかし、最後にはきっと力強い希望を感じて頂けると信じています。どうぞ、この奇跡のドラマをご覧下さい』

100206.jpgモンスターvsエイリアン(2009)

意思のある糸を・・

PIXERのCGアニメに真っ向から戦いを挑むドリームワークスCGチーム制作の「モンスターvsエイリアン」。

「カールじいさんの空飛ぶ家」もそうだけど、人が主役のCGってまだ最近なのよね。何故かというと、人肌の質感って微細でCGで表現するには膨大なコストと時間(特にレンダリング時間)が必要だったけどハード&ソフトの進化でセイフティーゾーンに入ってきたわ。

CGって制作会社のテイストが色濃く出るわね。ウエットな感じのPIXERにドライなドリームワークスといったところかしらね。まぁ、基本的な物語がしっかりしているから楽しめたけど、ドリームワークスは映像的にふとした部分でぎこちなさを感じてしまうのは否めないかも。

物語は、キュートな若き女性スーザンが自らの結婚式当日、突如空から降って来た隕石と接触し、身長15m21cm(50フィート)に巨大化してしまうの。すぐさま政府の秘密基地に収容されたスーザンは「ジャイノミカ」と名付けられ、基地内にて個性的なモンスター達と暮らす事になったわ。そんなある日、巨大なロボット・エイリアンが地球に襲来。迫り来る人類の危機を回避するため、スーザンはじめモンスター達は出動させられることに・・というお話なの。

とにかく各モンスターのキャラがユニークで、人間の愛しむべき愚かな部分を見事表現しているわ。スライムの様なゼラチン質で出来ている"ボブ"は無知の可愛らしさ、事故によりゴキブリの遺伝子を組み込まれた"コックローチ博士"は傲慢さ、幻の半猿半魚の"ミッシング・リンク"は頭より筋肉で考える単純さという具合にね。

でもピポ子が一番気になったのは巨大な"ムシザウルス"!ただうなるだけだったのに、エンディング近くで脱皮した途端まつげが生え、メスだという事が発覚して大爆笑よ。スーザンが巨大化してしまったことで、自分の社会的地位を守ろうと彼女に対する態度を変える婚約者や娘の身を案じる家族など、現実社会で必ず起こりうる人間の心情・・コミカルではあるけど、そんな部分を見てる側に投影させてしまうのもお見事!と言うべきね。

本編の印象としてはそれほど濃いものは残らなかったけど、手元に置いておきたいと思わせるキャラ作りは相変わらず素晴らしいわ。日本でも個人による作品が数多くネットに流れているけど、絵作りはとても綺麗・・だけどキャラの作り込みが弱いのがネックかしら。主人公に魂を吹き込むのは結構難しいものよね。

キャラって作者の人生経験や哲学が反映されるから、そこが表現できないと、意図のない糸を操るマリオネットのようになってしまうわ。逆にしっかりと意思を持った人が操ると魂が見えるのね。ピポ子もただの綺麗な操り人形にならないようにPIPO PIPO Cityのキャラと共鳴しないと!

Movie Review

2010 2
Dr.パルナサスの鏡
ラブリー・ボーン
モンスターvsエイリアン

Movie Review TOP PAGE