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00000.jpgマイレージ・マイライフ(2010)

彼が最後に交換した物は・・

アカデミー主要5部門にノミネートされましたが、残念ながらオスカー獲得はなりませんでした。でも、授賞式終了後にアカデミー会員が作品賞の1位に投票したのが多かったのが実は「マイレージ・マイライフ」と言われてます。今回のアカデミーはノミネート作品が多くなったので、集計方式が1位から10位までの順位を付け、その数字の合計が最も多い作品が選ばれる方式だったため、1位の票がまったく無くてもオスカーになるという矛盾も生じ、一部の会員からは「投票システムに問題あり」との声も出ているようです。

まぁ~それはいいとして、いい映画なんですよ!で、「マイレージ・マイライフ」レヴュー。

オリジナルのタイトルは「Up In The Air」で、年間300日以上を飛行機の中で過ごすビジネスマンのお話なのよ。

主演は俳優業よりもプロデュース業の方が忙しいかもしれないジョージ・クルーニ。彼が演じるのは、様々な企業からの依頼でリストラ宣告を代行するという、ちょっと複雑なお仕事。だから、北米を股にかけて飛行機で飛び回り、滞在ホテルと飛行機の中が我が人生なのよね。

それを嫌がるのではなく、楽しみ、励み、人にアドバイスし、人生を語る生きる達人。彼にとってリストラの宣告はされる側を新たなステップへのガイドと考え、ポジティブシンキングなこれからの生き方を布教する愛ある宣教師のようないい人。

そんな彼が、同じように飛行機で飛び回る女性と出会うのね。その女性も慣れた者。同じ匂いの彼との縁のない一時の愛に興じるわ。これがとてもサッパリしていて「だよね~」と共感してしまう。

その女性と対比するように一人の若い女性が登場するの。それはリストラ宣告代行の会社にエリートとして入社してきて、全てを机上的に処理しIT全開で会社を効率化させるの。そして出張業務も無くなるのだけど、その前に研修と言うことでクルーニの最後の出張に付いていくことに。

理論専攻型の彼女は初めて、生身の人間と接することで壁に突き当たるのだけどクルーニが優しく諭す・・。そして先ほどの彼女とこの女性の出会いから彼の人生の見つめ直しが始まるというお話。

映画って「アバター」みたいな異次元的な描写も大事だけど、人間臭さをひたすら追いかける作品が映画の本質だと思うわ。孤独の達人とストレスレスな達人と理論の達人はそれぞれが心のどこかに愛の欠片を隠しているのよ。それがふとしたキッカケで第三者に気付かれてしまった時の気まずさと嬉しさ。でもそれ以上踏み込めない人間の寂しさを見事に表現しているわ。

人は自分探しをする時、必ず故郷に戻り自分のルーツを確認しにいくもの。これこそBackHomeだけど、そのBackHomeとリストラされる側のBackHome、二人の女性のBackHomeが無理なくシンクロできてる。映画だからどこかで盛り上げなくっちゃなんて気負いもなく、ただただ自然に物語が進むのよ。素晴らしいわ。

キャスティングも完璧ね。クルーニは辛い宣告役を冷酷ながらも優しさを充分に表現してるし、お相手の女性もどこか影のある部分をしっとりと表現してる。部下の女性も快活さと若さ故のもろさをお見事な間を使って見せてくれる。「ラブリーボーン」も同様だったけど、毎度俳優陣のレベルの高さには驚かされるわ。

この三人が最終的にどんな生き方を選択するかわ、是非劇場でご覧になってね。果たして彼のマイレージはどうなるのか・・見物よ。

-マイレージ・マイライフweb-
http://www.mile-life.jp

100308.jpgココ・アヴァン・シャネル(2009)

束縛からの解放

「ココ・アヴァン・シャネル」・・才気あふれるオドレイ・トトゥがココを演じていると聞き、見ない訳にはいかない!と思い早速鑑賞。

時同じくしてシャリー・マクレーンが「ココ・シャネル」という作品を公開した事で混乱を招いたけど、今作はオドレイが演じたという事以外はそれほど心を掴まれなかったかも。

孤児院で育ち、クラブ歌手とお針子の仕事で生計を立てていた若きココ。やがてクラブに来ていた将校と恋に落ち、彼の愛人になるの。やがて彼女は自分独自のファッションスタイルを確立していったわ。そして自分らしく生き、自分が求めていた真実の愛を見つけるけど・・という少女時代をメインにシャネルとして成功するまでの部分が描かれているのよ。

当時コルセットで体をきつく結い上げ、ただ飾り立てることが美しいとされてきた窮屈な女性のファッションを覆し、異端とされたコルセットからの解放。コルセットは当時までの女性の立場の象徴とも言え、それを解放することで女性の自立と権利を確立したとも言っても過言ではないわね。スタイル的に元祖マニッシュスタイルを作り上げていくココを見ていると、パティ・スミスの姿と重なって仕方がないの。実に格好良いし、真似てみたいと思わされるわ。

映画はそんなココの哲学的な部分よりも、恋に揺るぎながらも常に自立を志す女性を強調しているの。その強さがオドレイお得意の目力演技で見事に表現されてゾクゾクする。ただ残念なのは、恋愛の部分に焦点をあてるのは良いとしてもストーリー全体が流れていってしまい、ココがなぜシャネルを人生を賭けて立ち上げるに至ったかという肝心の心情の部分が薄れてしまった気がするの。

監督のアンヌ・フォンティーヌはもとモデルでファッション業界の現場を熟知していたけど、メイキングで俳優に指示を出す様子はファッションショーの現場監督のよう。制作陣の殆どが女性というのは賛同できるけど、結果良い方向へ作用しなかったのかなと思わされてしまった。

アヴァンギャルドで、キュートで、クールなココ・・オドレイ無くして今作は完成しなかったわね。

ココが時代に立ち向かいながら"自分の感性"という武器で戦う姿をもっと力強く描いて欲しかったわ。でも、衣服は己を表現する大事な手段のひとつであることを改めて痛感。

ファッションブランドの位置付だと、今のシャネルは「保守的」な部類に分けられてしまうけど元々ココの哲学はアグレッシブ的な変革。そのポリシーは脈々と引き継がれているはず。

一時期シャネラーなんて言葉が流行ったけど、シャネルの根底にある哲学を考えるとおいそれとは身につけられないわね。本当の意味でシャネルを纏える様になれるような"良い女"になるには、容姿も精神もピカピカに磨かなくては・・!

100313.jpgヒラリー&ジャッキー(邦題:「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」)

天才チェリストの 束縛と解放

1999年の隠れた名作「ヒラリー&ジャッキー」。クラッシック愛好家やイギリス文化に精通している人には、“ジャクリーヌ・デュ・プレ”がどれほど天才だったかが実感として沸いてくるでしょうね。そうでない映画ファンにはデュ・プレって何者?と思うかも。

作品に触れる前に彼女の“伝説”をお話しするわ。

ジャッキーことジャクリーヌ・デュ・プレは今でもチェロ奏者として、あのチェロの神様“カザルス”と比較して深みには及ばないものの、総合的には上と言われるほど世界的な評価を得た女性で、英国では国民的ヒロインなのよ。

1945年にヒラリー(姉)とジャッキーは生まれ、英才教育を受けるの。その過程で特に群を抜いた感性と騒がれたのが妹のジャッキー。16才でプロデビューし、1965年の米国ツアーでは髪を振乱し『魂を揺さぶる情熱家』と大絶賛され、天才チェリストとして名声を得たの。でも、そこにのしかかる重圧も相まって情緒不安定に陥り、不幸にも20代後半に難病のせき髄硬化症を発症、42才の若さでこの世を去ったわ。

物語はこのデュ・プレの輝かしい実録を追ったものではなく、彼女の精神面をドラマ化した内容なの。それは見る人にとってはスキャンダラスに映り、本国イギリスでは一部上映拒否という事態も起こってしまい、彼女と共演した有名な演奏家達からも批判的な意見が多かったために過小評価されてしまったわ。

主人公はジャッキー(エミリー・ワトソン)と姉のヒラリー(レイチェル・グリフィス)、後にジャッキーの夫となる指揮者のダニエル。才能が開花したジャッキーを中心に家庭が動き始め、影的な存在となってしまったヒラリーは田舎へ戻り、養鶏場で夫と子供に囲まれながら普通の生活を送る道を選ぶの。そこへジャッキーが突然訪れる。姉に癒しを求めて・・そして、ヒラリーの家庭を共有してしまう。もちろん夫も・・。

デュ・プレへの思い入れ的な先入観無しにこの作品を見たけど、個人的にはとても感動できたわ。天才という称号は得てして、本人にとっては無用の長物以外何物でもないのよね。まして、病によってその賛美された部分を失う事は更なるプレシャー。自分からチェロを取ってしまったら何が残るのか? 演奏家としての自分が好かれているだけで、人間としての自分は生きる価値があるのか・・。凡人には到底理解できない混迷の極みがここにあるのよ・・。

後にヒラリーは、『もし、私が妹を夫と一緒にベットに行かせなかったら、彼女は滅茶苦茶になってしまったでしょう』とインタヴューで語っていたらしいの。この映画はヒラリーのこの言葉がすべてを物語っているのでしょうね。

その姉妹を演じたワトソンとグリフィス(この役で98年度のアカデミーにノミネートされる)の演技には鳥肌が立つほど情感が伝わってくる。特にワトソンは、デュ・プレが100年に一度の天才とすれば、同じく100年に何人も出ない逸材の女優と感じてしまったわ。
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この作品の素晴らしさはもう一点、ジャッキーの演奏シーンに圧倒されること。俳優が楽器演奏を始めると、『これは嘘!』と冷めてしまうのだけど、それがないのよ。演奏中の空気感・臨場感が見事に伝わってくるのよね。ここだけでもエクセレント。

これはあまりにも天才すぎた人間が受ける重圧、それを癒す姉の愛の傑作。ヒステリカルな状況は、ある意味人をピュアーにさせてしまう。自分を束縛するものが音楽であった時、それを解き放つのも音楽であり、それが人を歓喜させる。そして、愛で解き放てない欲求を感じた時、人は愛を束縛してしまう・・。生きるというのは何て複雑なメカニズムなのかしら。

邦題は「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」となっているけど、やはりこの映画は原題の通り「ヒラリー&ジャッキー」でないと駄目。極まった世界を知ることの出来る作品だけに、是非皆さんにオススメしたい一本よ。特に物作りをしている人にとっては、脳天一撃される事間違いなし。

1999年夏に発売されたアルバム“伝説のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレ”や2004年にエルガーのチェロ協奏曲の全曲演奏を収録したDVD等でほんとうのデュ・プレを堪能してもらえれば、更にその強烈なエナジーがあなたをとらえてしまうはず!

100220.jpgウェインズ・ワールド(1992)

愛しき音楽バカたち

最初から最後まで大爆笑!・・1992年の公開の映画「ウェインズ・ワールド」を見終わった時は、頬の筋肉が痛くなったわ。

あの『サタデー・ナイト・ライブ』のコーナー番組という事でも有名な今作、ロック音楽ファンにとっては疑う事なきイチオシ作品と言って良いかも!これは確実に見る人を選ぶ映画でもあるわよ。

ロック大好物の青年ウェインとガースは、大人気ケーブルTV番組「ウェインズ・ワールド」を自宅の地下から放送する名物パーソナリティなの。そんな彼らの人気に目を付けたTVプロデューサーはウェイン達に大手TV局の出演を持ちかけたわ。多額の契約料を手にした二人は行きつけのライブハウスで美女カサンドラに出会い、ウェインは恋に落ちてしまうの。やがてプロデューサーもカサンドラに目を付け、三角関係が勃発・・というストーリーよ。

クライアントとプロデューサーのやりとりや、契約の様子なども滑稽に描かれていたのが面白さに拍車をかけていたわ。ウェイン達が車中でクイーンの「ボヘミアン・ラプソティ」を熱唱しヘッド・バンキングする伝説的なシーンは有名だけど、ガースが行きつけのドーナツ店の美女に告白するという"妄想シーン"で、ジミヘンの「フォクシー・レディ」に合わせて踊るシーンはお腹よじれものよ。因みに、クイーンのフレディはこの映画のおかげでアメリカ市場で基盤ができたと感謝していたそうよ。

細かいとこだと、楽器屋で「No Stairway To Heaven」という看板が張ってあって主人公があのフレーズを弾き始めると店員が慌てて止めに入るシーンは映画業界に詳しい人ならバカ受けよ。それとピポ子としては、大好きなアリス・クーパーが登場しただけでなく、ミルウォーキーについて語っていたのには大感動!!

今作は過去に音楽ドキュメンタリー作品を世に送った女性監督ペネロープ・スフィーリスが手がけたのだけど、彼女のロックに対するこだわりと情熱にはとにかく頭が下がったわ。キャスティングもさることながら、彼女を監督として向かい入れた事が作品の成功に結びついたと言って良いかも。

ウェインとガースは一見子供じみた行動ばかり起こしているように見えるけど、自分のしたいこと、好きなことに対して果敢に挑んでいく前向きな姿勢は見ていて本当に気持ちが良い。そして、日本では希薄な地域の人との深い繋がりという部分がとても羨ましく、ちょっと考えさせられたわ。

日本で公開時の興業成績はよくなかったようだけど(この面白さのディテールはマニア級だから)、これだけの豪華な"ツボ音楽ネタ"を披露してくれただけでなく、"自分の人生を自分に正直に楽しく生きた方が得だ"という事を思い出させてくれた本作には感謝したいくらいよ。続編は日本未公開のようだったけど、続きは改めてご紹介。シュゥイーン!

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2010 3
マイレージ・マイライフ
ココ・アヴァン・シャネル
ヒラリー&ジャッキー
ウェインズ・ワールド

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