Movie2008_04

img61d628a8zik1zj.jpeg「パンズ・ラビリンス」

スペイン迷宮、無垢な魂の試練

うわうわうわ・・・また素晴らしい映画に出会ってしまった!「パンズ・ラビリンス」。映画関係者の中でも評価の高い、NY・LA映画批評家協会賞の作品よ。監督はメキシコ出身のギレルモ・デル・トロ。

一般的なファンタジー好きさんは絶対見ない方が良いわ。精霊や妖しは出てくるけど、人間の内面のどす黒い部分を見事に表現しているダークファンタジーだからね。

以前紹介した「ロスト・チルドレン」や「アメリ」にも共通して言える事だけど、ヨーロッパの映画は緑、赤、黄色の発色が独特で本当に美しいわ。赤や緑は濃度が濃く粘着性のある風合いだし、黄色はゴールドに近いのよ。だからこんな作品が生まれるんでしょうねえ。

物語は、1944年の内戦終結後のスペインが舞台。主人公の少女が、身重の母と共に再婚相手であるフランス軍の大尉の駐屯地へ赴くの。だが冷酷で残忍な新しい父を受け入れられずに悩む彼女は、ある日妖精に誘われ森の中の迷宮へ。そこで牧神(パン)に出会い自分が地底にある魔法の王国の王女である事を知るの。でも王国に戻るには3つの試練をクリアしないといけない・・・少女は地底の世界で試練に挑みつつ、現実の世界でも傷つきながら戦っていくの。

そして・・・本当の意味でハッピーエンドとだけ言わせて頂くわ・・・本当の意味でね。面白い事に本編で登場するアイテムが、道祖神や石庭の渦模様など日本に共通するものが幾つか合って興味深いのよ。極め付けは、両手に己の目玉を挿入して人間を喰らう妖しが日本の妖怪"手の目"そのものなので驚いちゃったわ!それに牧神と手の目の関節をガクガクとさせる特殊な歩き方は、CGと見まごうほどの人離れした表現力!役者さんのレベルも高い!

でも・・・リンチしたり殺すシーンはどれもリアルで、頬を撃たれて眼球に血液が流れ出る様や、脱脂綿に滲み出る血液の色合いなどは完璧過ぎて言葉も出なかったわよ。

ダークといっても、ここでもやはり一番恐ろしいのは生きている人間ね。サディスティックな少女の新しい父親の所業は"悪魔"そのものだもの。現世であれ別次元であれ"自分にとっての幸せとは何なのか?"という事を深く考えさせられたわ・・・日本とヨーロッパではものの捉え方がこんなにも違うのかと楽しみつつ、すっかりお腹一杯になったピポ子でありました。

img0f4a472ezikczj.jpeg「非現実の王国で/ヘンリー・ダーガーの謎」

非現実王国からの妄想、机上での密かな戦い

謎のアーティスト"ヘンリー・ダーガー"をテーマにした作品。

映画はダーガー氏のアパートの大家さんや隣人の証言によるドキュメンタリーと、彼の作品のアニメーションで構成。アニメといっても、実際の絵の雰囲気を壊さないようにという考慮からか、ちょっとした動的処理が施される程度だったので良い感じ。

ダーガー氏は、母が亡くなり妹が里子に出された事も知らず、優しい父と暮らす本の大好きな子だったそうよ。父が倒れてからは少年施設に預けられ、そこから学校に通うものの奇異な行動の為いじめにあい、自分の身を守る為戦った結果、問題児扱いで知的障害の保護施設に送られてしまうの。

そこでの生活に耐えられずシカゴに脱出、病院の清掃人の仕事を見つけたのだけど、そこでも尼僧のいじめが・・・教会で養子縁組みを願い出るも断られる。ダーガー氏はそんな現実の世界に打ちのめされながらも"究極の物語"を書く事で自分の世界を築き、執筆に全ての時間を費やしたの。

子供奴隷を解放する為戦うヴィヴィアン・ガールズの物語・・・それはきっとダーガー自身の戦いだったに違いないわ。貧しい生活ではあったけど、新聞を読み尽くしイラストの資料となる切り抜きを集め、肉屋の包み紙を張り合わせた紙に絵を描いてゆくなど、創意工夫をしてどんどん作品を作っていったダーガー氏。

驚いた事に、彼は誰に教わる事なく絵を描く手段としてコラージュやトレース、更に当時高額だったコピーを使って絵を仕上げていたのよ。その結果物凄い大作が出来上がったわ!

テレビもラジオもない部屋で、独り言で何人もの役を演じながら執筆する日々・・・でもそれは彼にとって自然な行為であり、当たり前の事だったの。物語上で楽しそうに花園で笑う少女、戦闘で果敢に戦う少女、内臓を出して殺される少女、どの子もダーガー氏自身であり、このストーリー自体が彼の生き様なのよ!!・・・恐れ入りました!

ピポ子も深夜PODCASTを制作する時1人で何役もの声を出している所は彼と同じね。そんな所に共通項を見いだしても仕方ないけど、ダーガー氏のモノづくり魂に負けてはいられないわっ!

imge476d2abzik1zj.jpeg「ノボケイン」

局部麻酔、笑ウうさぎのぬぃぐるみ

喜劇俳優で有名なスティーブ・マーティン主演の映画「ノボケイン」。

タイトル「ノボケイン」は麻酔の名称だから、サスペンスなのかと思いきや・・・ピポ子の大好きな"ニヤリとする"ブラックなストーリーだったわ。

主人公のエリート歯科医は、美人で仕事の出来る歯科衛生士をパートナーに持ち順風満帆な人生を送っていたの。しかしある日、美しく年若い患者に誘惑されてしまった事により転落の一途を辿る事に・・・。若い女は自分の弟の為に病院にあった麻酔薬を盗み出し、そこから次々と殺人事件が発生。医師は麻薬密売容疑や殺人容疑をかけられ警察から追われる身になってしまうのよ。

彼は身の潔白を証明しようと探っていくうちに、自分を陥れた絡繰りを知る事になるの。医師が失ったもの、そして得たものとは何か・・・!?といった内容なのだけど、登場人物がとにかく際立っていて面白い。

医師の恋人の歯科衛生士のキワモノぶりは特に素晴らしいわ。常に全身同じ色の服を身に着けたり、家の額縁を全て拭いたり小物を整列させたりと病的な完璧主義を見事に表現しているの。

他にも、大きなペンダントを付けた黒人の警部、前髪が異常に短く小太りで態度がおじさん臭い検察官の女性、刑事役を得る為に実地訓練にやって来た俳優、大喰らいで職務怠慢なおデブ警官などが登場したりと、全てが"誇張"されたキャラばかりで、それぞれに潜んだ意図を探るとニヤニヤしてきちゃう。

作品の冒頭と最後に「人間にとって最悪の事態は、歯を無くす事だ・・・」というナレーションが入るのだけど、見る前と見終わった後ではその意味合いが違って感じられると思うわ。1人でじっくり見るのがオススメよ!

さてと、ピポ子もそろそろ歯科検診に行ってこようかな・・・取り返しのつかなくなる前にね。

img78656e4dzikazj.jpeg「ヘア・スプレー」

ポジでぶ、向かう所敵なし!

映画「ヘア・スプレー」・・・以前ミュージカルは見に行ったけど、映画ではどう表現されるのか興味津々だったので、見ちゃった!

物語は1960年代のアメリカ、ボルチモアが舞台。背が低くて個性的な髪型の明るい女子高生のおでぶちゃんは、人気ダンス番組「コーニー・コリンズ・ショー」がを見るのが大好きで、いつか自分もその番組に出てスターになりたいと思っていたの。

そんなある日番組のオーディションがあると聞き、受けに行くもその容姿では無理と番組の女性プロデューサーにあしらわれ、断念。へこんだものの、偶然知り合いになったダンスの名手である黒人の男子学生からダンスを学び再びチャレンジ。するとコリンズ氏に個性溢れるダンスが認められ番組レギュラーの座を勝ち取るの。

反対していたおでぶちゃんの母親は彼女そっくりのダイナマイト・ママだけど、外見で判断される社会で頑張って輝く娘を応援するようになり、自分もその影響を受けおしゃれをするようになり美しく変わっていったわ。やがて番組の女性プロデューサーの差別から、番組内の黒人デーがなくなる事を知ったおでぶちゃんは、白人代表としてデモに参加。おでぶちゃんは追われる身になったけど、彼女を支援する親友や黒人の友達のお陰で、番組のメインイベント「ミス・へアスプレー・コンテスト」の生放送に無事出演!その結末はかなりスッキリよ。

舞台と違い、映画では細かい描写が可能だし、衣装もヘアもじっくり見る事が出来て良かったわ。ジョン・トラボルタが母親役を演じるという事で話題になったけど、実に見事に演じ切っていて、途中から可愛く見えてきちゃった・・・。仕草ひとつひとつが良い感じよ。

ひとつ気になったのはおでぶちゃんが途中から髪にメッシュを入れてるのだけどそれがやけに浮いてしまっていて、コンテスト出演時にはふっくら60年代ヘアーをやめてストレートにしていたので、ブリトニーかと思うくらい現代っ子になってしまっていたの。時代背景から考えてもちょっと疑問に思えたのよね。その点を除けば、外見、人種差別、そして家族、友人、恋人への愛が見事に描かれているわ。

ピポ子は舞台の方が数段気に入ってるのだけど、ミュージカルは生の方がエネルギッシュだから仕方ないわね。マイナス思考になってる方は是非見てみて!今のままの自分でいる事の素晴らしさを見直せるはず!

img569d7117zik4zj.jpeg「バードケージ」

自由な鳥籠、本当の家族

久々に笑ってホロリ・・・な映画「バードケージ」(Mr.レディMr.マダムのリメイク)。

内容は本当にハートフルよ。フロリダでショークラブ「バードケージ」を経営するオーナーの息子が結婚すると言い出し、父の元に帰ってきたの。相手は上院議員のお嬢さんでご両親はかなりの堅物。

でも最近派閥の議員のスキャンダルに巻き込まれ、マスコミに追われる身になっていたので、クリーンなイメージ作りにこの結婚話はまたとないチャンスと大喜び。しかしクラブ経営者では結婚を許されないと思った息子は、婚約者と口裏を合わせ自分の父は外交官だと嘘をつくのよ。

そして更に大きな問題が・・・父はゲイで店のトップスターの男性と暮らしており、店もドラッグクイーンだらけなの。急きょ婚約者の一家が息子に会いに来る事になったから大変!

男性的振る舞いが無理だと分かった父の恋人は、いつもの女装に磨きをかけ母親代わりを演じ切るのだけど、家族の大切さに気付いた息子が告白し全てばらしてしまうの。マスコミに嗅ぎつかれ囲まれてしまった議員一家は、母親代わりの機転により女装し店のショーに紛れて無事脱出!その後若い二人は無事ゴールインよ。

とにかく何が凄いってゲイ二人の演技がとにかく素晴らしい。

特に母親代わりが必死で男性になり切ろうとする場面は傑作!男性でありながら、"男性の立ち居振る舞いを否定する"演技はお見事としか言いようが無いわ。洗濯物に触れる、クッキーをつまむ、ファンデを塗る・・・どの仕草も表情もあまりに自然で思わず疑ってしまうぐらいよ。

もしこんな家族がいたら、絶対愛情深い素晴らしい家庭が出来るだろうな・・・性別うんぬん血のつながりうんぬんではない、固い絆が人間の心を幸せにしてくれるに違いないもの。美しい歌声を披露する鳥達は、世間から鳥籠で身を守る事はあるけど、本当の意味で自由。ふとした家庭の暖かさを感じたい方には是非オススメよ!

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2008 4
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非現実の王国で/ヘンリー・ダーガーの謎
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ヘア・スプレー
バードケージ

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