Movie2008_06

img1d19e05fzik5zj.jpeg「オール・アバウト・マイ・マザー」

女性賛歌、愛という名の遺伝子

ちょっと自分を振り返る時間が出来たので、この映画を見てみたの。「オール・アバウト・マイ・マザー」

公開当時、強烈な印象のポスターと寂しげな旋律に載った独特の質感の予告映像を覚えていたけど、実際見てみると印象は異なるものだったわ。とにかく内容から言ってドーンと重くなってしまいそうなのに、舞台のスペインという国の"色合い"の為か監督の独自の視点の為なのか、腹底にずっしり響きつつも爽快感が残るという奇妙な感覚を得たの。これはきっとピポ子が女性だからなのかしら・・・

何せ見終わった後に、女性として根本的な喜びをしみじみ感じさせてもらった気がするわ。

ストーリーは、臓器移植コーディネーターという仕事を持つ未婚の母が、息子の誕生日に親子で芝居を観に行くの。その帰り舞台女優にサインをもらおうとした息子は事故死・・・皮肉にも息子の臓器は母の目の前で他人の体へと渡ったわ。母は悲しみに暮れ、長い間会っていなかった夫を探そうと旅に出るの。

男性の体を持ちながら女性の心と乳房を持った友人、夫の子供を宿してエイズに感染してしまった修道女、娘が不幸に見舞われて初めて縁をつなごうとする修道女の母親、息子がサインを求めた大女優とそのガールフレンドの女優、そして息子が会いたいと焦れていた、豊満な胸を持ちエイズで余命いくばくもない夫・・・すべての"女性"が自分に正直にひたむきに生きていく姿は本当に美しい。

"彼女達"の愛には一点の曇りもなく、その結束力は理屈ではない強さを感じるわ。きっとそれは"母性"という共通遺伝子で繋がっているからなのね。ひとつ印象的だったのは、画面上に現れるオレンジの色。息子が事故にあった晩母が身に付けていたコート、修道女が母と初めて会った日着ていた服、大女優の髪の色・・・場面の所々に出てくるそのオレンジ色があまりにも強烈で美しく、未だ脳裏に焼き付いてるわ。

スペインという国は情熱的なイメージがあるけど、このオレンジの色合い=女性の強さを感じていたからなのかもね。以前うちのスタッフが、アルモドヴァル監督に「どうしてタフな女性を描くのか?」と聞いた時彼はこう答えたそうよ。「女性は大胆で偏見もない。それに秘密を沢山持ってるだろ。男は小心で単純だから日常を映画にしても面白みが無いんだよ。その点女性は違うのだよ」

・・・なるほど!まったくその通りだわ。男性を蔑むつもりは全く無いけど、これほどまでに女性を冷静に理解出来る監督だからこそ生み出せた作品なのね!彼の中の遺伝子がそうさせたのかしら・・・ふふ。ピポ子もこれからの人生、女性である事に誇りを持って生きていかなくちゃ!!

img81f20777zik1zj.jpeg「カーラの結婚宣言」

純粋を保つ為の代償

今迄"純愛映画"というものにアンテナが向かなかった。だけど映画「カーラの結婚宣言」を見てアンテナは伸び放題になったわ!

どうしても"純愛"がテーマとなると、どこかしらに無理やうさん臭さを感じてしまうのだけど、この作品は別格だわ。結末は見えているものの、迂闊にも"曇りのない美しい愛"に感動して泣いてしましました・・・それはきっと、ピポ子が年を重ね欠落してしまった部分を思い出したからなのかも。

物語の舞台はサンフランシスコ。裕福な家庭に育ち軽い知的障害を持つ末娘カーラが、自立を目指し職業訓練校に通う事になったの。そこで彼女は同じ障害を持ったダニーという青年と恋に落ちるのよ。だけどカーラの母は彼女が心配で心配で、何にでも干渉してしまう。娘を守りたい一心の母、自分の力で生きたい娘、そんな母娘の葛藤はあったものの、カーラは優しい姉達や父や友人の力を借りてダニーと結婚宣言し、幸せを掴もうとするの。

いつもの事ながら役者陣は恐ろしい程演技派!カーラやダニーの目や手の動き、歩き方、洋服の着脱・・・見事としか言いようがない!!

2人の残酷過ぎるほどの無垢でまっさらな心の交流は、子供の持つ純粋さのようでもあるけど、今生の人間の持ち合わせてるものでは無い気がしたわ。ハロウィンパーティの夜、学校の片隅で2人が初めてキスする場面は「こんなに美しいキスシーンがかつてあっただろうか」と心から思えるほど清らかで、じっくりと感動の波が押し寄せてきたわよ!自分が悪魔払いされてる悪魔のような気がしてきた・・・。

でも、カーラの家庭は裕福だから障害を持っていても守ってもらえる、だけどダニーは学校の援助も打ち切られてしまう貧しい家庭・・・この2家庭の対比が実に現実味があり、この作品が夢物語にならない為のしっかりとした背景になっているの。

普通なら、身分違いの恋は人間の欲や猜疑心などで壊れてしまいがちだけど、この2人にはそんな事は有り得ない。言葉は悪いけど、天使の羽を片方歪められた事で、彼らは無垢な魂を持ち続ける事が出来たのかもしれない。それは素晴らしい事であるけれど、現実世界で生きる為には残酷な事なのかもしれないわね・・・。

実はオリジナルタイトルは「The Other Sister」でカーラを軸にした3人姉妹のお話なの。原題の方がこのお話を十分に表現してると思う・・・。見終わった後は爽やかに、自分の表情がキラキラとしてくるわよ!吹き替えもまた素晴らしいので、機会が有ったら是非吹き替え版も試してみてね。結婚・・・結婚かあ。ちょっぴりブルー・・・。

img9c741887zik9zj.jpeg「交渉人」

役者淘汰

サミュエル・L・ジャクソンの演技力に魅了されてしまったピポ子は、早速彼の主演映画「交渉人」を拝見!普段は、こういったストーリーにはなかなか触手が動かないのだけど、とにかく交渉人役のサミュエルとケヴィン・スペイシーの演技が素晴らし過ぎて存分に堪能させて頂きましたわよ。

物語はサミュエル演じる、シカゴ警察のトップ人質交渉人が相棒を殺害されてしまうの。でもその背景には、警察内部の人間による横領事件が大きく関係していたのよ。相棒の殺人と横領の疑いをかけられ追いつめられた交渉人は、真犯人を見つける為に、連邦政府ビルに関係者を人質に立て篭もったの。警察内部に裏切り者がいると判断した彼は西地区のトップ交渉人を指名。真相を究明すべく、交渉人同士の命を懸けた頭脳作戦が展開していくというストーリーよ。

この主役の2人を見ていると、当たり前の事ではあるけど、役者さんって役毎に見事に別人になれるものなんだと、改めて感動させられてしまったわ!日本のドラマや映画では、その当たり前の事が出来ている役者さんっていない気がするもの。1本の作品を通して見ても、登場人物の色合いがベタ塗りされたように単調で、心情が見えてこないのよね。

でもサミュエル演じる交渉人は、銃を持つ事にふと恐怖を感じ、愛する妻と仲間から得る仕事の充実感を得て、自分の正義を貫く為に命を投げ打ち、時に感情的なりつつも戦う・・・ストーリーの進行と共に心情の変化が見事に表現されてるわ!ケヴィン交渉人も同様に、家庭を大事にする父親の顔から、張りつめた現場で冷静な判断を下すプロへ、そして自分の信念を貫く強さが目まぐるしくよく見えて、視聴者側がまるで彼らとはずっと知り合いだったかのように思えたわ。

いやぁ・・・演技の何たるかをまざまざと見せつけられてしまいましたよ!日々こんな作品を作られちゃ、もう太刀打ち出来ないかも。この映画を見たら、軽い気持ちで役者を目指していこうと思ってる方は断念してしまうかもしれない・・・なんて心配してしまうピポ子でありました。

imgbdcaaa93zikezj.jpeg「ゾンビ」

元祖肉食、人間である事の悲しみ

"マスター・オブ・ホラー"ことジョージ・A・ロメロ監督の1978年作品「ゾンビ/ドーン・オブ・ザ・デット」。"ゾンビ"に対して、誤った見解を持っていたという事を思い知らされた名作だったわ!!残虐なシーンが多い最近のホラー作品とは大きく違い、これほどまでに人間を深く描いた作品は他には無いんじゃないかしら・・・。

物語は、全米で突如死者が蘇り生者を襲い始め、彼らに食われたものはゾンビとして又人を襲うの。テレビ局に務める女性とその恋人は、SWAT隊員2人と共にヘリで脱出。大型ショッピングモールへ非難する事にしたの。そこにもゾンビが沢山いたけど、4人は知恵を絞り彼らを殺した後、モールの入り口を塞いで自分達の生活圏を築く事に成功したわ。だけど安定した日々は続かず、武装した略奪者達の侵攻によりゾンビがモールへ進入してしまい、更に武装集団は食料や衣類を独り占めしようと彼らを襲い始めたの。そして彼らの運命は・・・というお話しよ。

何故ゾンビが発生したのか等は一切描かれてないの。とにかく人間の欲、狂気、悲しみが見事に描かれていて素晴らしい!黒人のSWATが最初にゾンビを撃つシーンでは人が人を殺さなくてはいけない悲しみが強烈に伝わったし、移動中ゾンビを楽しそうに"狩る"警官やハンター、白人SWATが自分の戦闘力を過信し浮かれて銃を振り回す狂気・・・自分たちの食糧や衣料でないのに、武装集団に奪われまいとする欲に翻弄されて発砲し、その結果自らの死を招いてしまった彼氏・・・人間の本能が色濃く浮き出されていて感動したわ!!

ゾンビがモールへ集まったのは"生前の習慣"が理由なんだけど、監督は彼らの行動を"アメリカ的巨大消費社会への批判"として表現したんですって。モール内にあるスケートリンクは最初、習慣を覚えていたゾンビだらけ、その後は女性が1人で滑り、最後は彼女が銃を撃つ練習所になるのだけど、彼女が強く成長していく様が良く現れているのよね・・・この点にも参りました。

とにかくホラーやスプラッターの捉え方が180度変わるわよ!日本公開時『肉をくれ・・・』なんというナンセンスなキャッチコピーを付けた配給会社には呆れちゃう!文句なしの名作よ!ゾンビになる前に見・・・て・・・ね・・・ガリガリ・・・。

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2008 6
オール・アバウト・マイ・マザー
カーラの結婚宣言
交渉人
ゾンビ

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