Movie2008_08

imgf413e570zikczj.jpeg「KIKA(キカ)」

血みどろの明るさ

これほどまでに奇抜で、しかも明るい血みどろの映画を見た事ないわ!ペドロ・アルバモドバル1993年監督作品「KIKA(キカ)」を見終わっての最初の感想よ。

昔レンタル店でこの作品のポスターを見かけた時そのセンスの良さに衝撃を受け、しかも大好きなジャン・ポール・ゴルチエが衣装を手掛けていると知り見たくてたまらなかったの。でも、ポスターから予想していた内容と大分異なるストーリーで度肝を抜かれたわ。

メイクアップ・アーティストのキカはある作家のメイクを担当した事がきっかけで家に招待されるの。ドキドキしつつ家を訪れると彼から一言「息子の死に化粧をして欲しい」・・・キカが仕方なく化粧を施していると息子が突然生き返り、2人は恋に落ちて同棲する事に。しかしカメラマンを生業とする息子は性的倒錯者で、なんと愛するキカを・・・。

そんなある日お尋ね者がやってきて彼女に襲いかかるという事件が勃発したわ。あっという間にスキャンダルをスクープする話題のTV番組『今日の最悪事件』でこの事件が取り上げられ、奇抜な衣装で登場する女性レポーターがキカやカメラマン、父親の作家を追い回し、徐々にそれぞれの思惑が明らかになってくるの。

とにかく人間関係が宗教画の蛇のように繋がっていて、昼ドラマでいうところの"ドロドロ"とした内容であるにも関わらず、キカの天真爛漫な明るさやポップな赤やオレンジの美しさが、どす黒さを打ち消し爽快感さえ出しているから不思議!

同監督の「オール・アバウト・マイマザー」でも同じ色合いが画面を彩っていたけど、今回は底抜けに明るい色に仕上がっていて、古着屋を覗いた時の様なアート感が漂っていたわ。女性レポーターの身に付けていた血の滴るワンピースや、カメラを頭に装着し胸にライトが内蔵されたタイトなライダースーツは彼のコレクションを彷彿とさせる素晴らしいものよ!これだけでも一見の価値があるわ・・・着てみたい!!

でも一番印象に残ったのはキカとカメラマンの愛の巣で働いてたメイドさんなのよね。そのお顔立ちと個性がずば抜けていて目が離せないの。全ての登場人物が自分を愛し、自分の思う通りに生き、人の愛を欲する・・・当たり前の事なんだけど、なんだかそれが人間としての原点なんだよなあと気付かされたわ。

キカだけでなく、全員が悪意無く正直に生きているから後味が良いのかもしれないわね。ピポ子も自分に正直になって・・・お腹が空いたからたらふく食べちゃおう!でもスカートき・つ・い・・・。

img019340d6zik2zj.jpeg「テネイシャスD」

痛快!おデブ道、レッツ!パワースライド

ロック好きな太っちょ少年JBが厳格な父に反発し、何故か部屋に貼って有ったロニー・ジェイムス・デュオのポスターに『ハリウッドに行け』という啓示を受け家出するの。数年後彼は遂にハリウッドに到着し、海辺で超絶テクニックを持つ、これまた太っちょギタリストKGに出会うのよ。

彼の技術に一目惚れしたJBはKGとバンドを組み、賞金目的で地元のライブハウスのコンテストに出る事になったけど新曲が必要。何とかいい曲を作りたい・・・そう思い何の気なしに音楽雑誌を見ていると、歴代の大物ギタリストが皆同じ形のピックを持っている事に気付くのよ。そのピックを持てばきっと売れっ子になると信じた2人はピック探しの旅へ・・・。

とにかく全編ジャック・ブラックのロックに対する愛情で溢れていて、音楽好きにはたまらない作品である事は確かね!父親役にはミートローフ、ポスターから出てくる御年66歳のロニー・ジェームス・デュオというキャスティングもたまらないわ〜。

何よりも驚かされたのは、JBの歌唱力!彼が公園のベンチで「自分はまるでベイビー」と嘆きをアカペラで歌う部分は本当に素晴らしかった!!とにかく発声がしっかりしているから何を歌っても揺るぎないのよ。

劇中の楽曲は2人で作っていて、王道のハードロック的なものから笑える程ファンシーなもの迄、ストーリーに添って実に色合い豊か。実際彼らはバンドを組んでいるとはいえ、ここまで出来るなんてさすが!!

ストーリー自体は単純でも、シーンの転機毎にタロットカードや名画に見立てた2人の映像が出てきたり、細かいギャグが随所にちりばめられたり色々と工夫されているので、頭を空っぽにして大笑い出来るわ。

おっと・・・これ以上はお話出来ないけど、劇場に足を運ぶ人の為にひとつ。映画の開始直前とエンドロールの最後は必ず見てね〜!んっがっくっくっ。

img770b77d8zikazj.jpeg「遠い空の向こうに」

初志貫徹 夢、のちのち晴天なり

結末が読める映画は、進行するにつれ興味の度合いが減少してくるのが常だけど、役者陣の演技力でグイグイひっぱられちゃう場合もあるわね。

1999年作品「遠い空の向こうに」もまさにそうなの!

舞台は1957年のウェスト・ヴァージニア州の炭鉱町コールウッド。父を炭坑夫に持つ平凡な高校生ホーマーは、ソ連の人工衛星スプートニクの打ち上げを見てから自分もロケットを打ち上げたいと思うようになるの。悪友やクラスの変り者を仲間に日夜ロケットの研究に時間を費やし、女教師もそんな彼らを応援してくれたわ。

でもこの町はラグビーで奨学金を得て大学に行くか、炭坑夫になるしか選択肢がない田舎町・・・ホーマーの父親は厳しく、彼を炭坑夫にしたいと考えていたのよ。ホーマー達の涙ぐましい努力に、最初はバカにしていた大人達も次第に協力的になり、遂に彼らはロケットを打ち上げに成功!

女教師は若い科学者予備軍に、全米科学コンテストに出展するよう薦めたの。そこで優勝出来れば、奨学金を得て大学に行くという選択肢が得られるから・・・。でも夢を叶えたいと強く願うホーマーの前に様々なアクシデントが襲いかかる・・・というお話なのだけど、これが実話だというのだからビックリ!

父の子への無骨な愛情、そんな父の愛に気付くまで反発し自分の道を根性で切り開いたホーマー・・・熱い友情と町全体のファミリーのような結束。様々なテーマが重なりあい、事実はフィクションの世界以上にドラマティックなのだわ!

ホーマーの父を演じたクリス・クーパーは、ピポ子が大好きな映画"アメリカンビューティ"の問題の父親を演じた俳優さんなんだけど、今回も素晴らしかった!!仕事と労働者達を守ろうとする芯の強さ、垣間見せる言葉無き息子への愛情の表現・・・目で、背中で、体の全身を使って演じるというのはこういう事なのだと感動。

夢をテーマとした時、夢そのものが成就した瞬間を感動的に演出するのは誰にでもできるわ。しかし、その過程、つまり失敗した時の悔しそうな描写の中に、夢に賭ける集中力を描き出した凄さが、この作品に力を与えたのね。

誰でも若い頃、親に反発する時期はあるけど、自分はホーマーの様にここまで努力して己の主張を貫いた事があっただろうか・・・見終わってそんな風に反省しちゃった。ピポ子は今長い時間かかってようやく自分の道の入り口に立てた訳だから、これから速度を上げていかなくちゃ!宇宙に向けてね。

Movie Review

2008 8
KIKA(キカ)
テネイシャスD
遠い空の向こうに

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