Movie 2009_02

マグノリア「マグノリア」

愛と不信、24時間のあがない

ちょっと宗教的意味合いの濃い作品を見たわ。それは1999年作品「マグノリア」

ここはロスの郊外マグノリア・ストリート。人々は一見、お互いに無関係な存在ながら実は運命の糸に絡まっているの。そんなお話を3時間の長編で描き出した短編的構成、それが「マグノリア」よ。監督はポール・T・アンダーソン。

この作品に主役はいないの。主だった12人の運命が24時間同時進行しながら展開、一つの話に終結していくのね。冒頭で、主人公すべてが人物紹介のようにガイドされるところから物語がスタートするの。

主な登場人物は“クイズ番組の司会者”“天才少年”“死に行く男とその生き別れた息子”“恋する警官”他。構成は大きく二つの流れがあるわ。一つは病気(ガン)で余命幾ばくもない、元TV局のプロデューサーと生き別れた息子(トム・クルーズ)に、そのプロデューサーと遺産目当てに結婚した若い妻(ジュリアン・ムーア)よ。

そして、そのプロデューサーが現役の時に制作し、今でも人気を得ているクイズ番組の司会者とその妻に、番組で人気者の天才クイズ少年がもう一つの流れなの。ここに、死に行く老人を介護する男や番組司会者の娘、その娘に一目ボレする警官、天才少年の父に元天才少年などが巧みにストーリーを織りなし終結していくわ。

彼らに共通するのは寂しさ。そして人生の岐路に立たされる事。決断する者、迷って後回しにして更に問題が大きくなってしまう者と様々よ。良かれと判断したことが・・。例えばクイズ番組の人気者だったドニー(元天才少年)は今や文無しでツキにも見放されている。そこで初めて気付く!かつては拒絶していた愛情や仲間付き合いを求める事に・・その結果・・。それにオーバーラップするように描かれる現役の天才少年の孤独。遺産目当ての妻が、夫が死にかけようとする瞬間に感じた愛。米のシンボル的な円満家庭でも娘は性的虐待からドラッグ中毒で親とは不仲。

この社会との疎外感が、正直すぎて落ちこぼれてしまった優しい警官と同調してコミュニケーションが芽生えるの。と、全てがアメリカの影の部分に焦点を当てているような・・・。テーマは家族の絆の大切さと寛容。脈絡が無いようでも、それぞれが影響を及ぼす。臭ってきそうな程に人間味のある風変わりなキャラクターは、アンダーソン監督の得意とするところね。

ピポ子の大好きな「American Beauty」のサム・メンデス監督とそう言った意味では同じ時代の見方をしているわ。メンデスが全体として闇の向こうに明るさを見せたとすると、アンダーソンは闇(人間不信)をリセットする描写に徹したの。これは一昔前であればインディペンデントでしか表現できなかった世界だけど、観客層の変化でメジャーな作品として世界に流せる時代になったのが素晴らしいかも。

各パートの役者の演技と演出が素晴らしいのよ。キャラクターに見事に溶け込んでいたのには驚き。クルーズは女嫌いなのに女性から好かれまくるカリスマTVパーソナリティという矛盾した役柄で、役者としての幅を広げたわ。他のキャストも同様よ。

そして、「マグノリア」を見る前に絶対に知っておかないと全体の意味が通じない大事な場面があるわ。それは“カエル”。ここに象徴的に登場するカエルは旧約聖書に出てくるカエルよ。それはモーゼに率いられたユダヤ人の出エジプト記を描いた章で、“ユダヤ人を奴隷から開放しないエジプトの王に神は災難を与える”というものよ。その災難がカエルの大量発生なのね。つまり不信を抱くものへの罪のあがないがベースにあるの。そのカエルがどこで出てくるかは見てのお楽しみ~。

罪と罰、愛と不信、名誉と孤独・・、宗教的要素を背景に3時間でこれだけ密度の濃い作品は初めて見たわ。アンダーソン監督を含め、独学で映像を学び一般的な映画制作のセオリーに組する事なく表現できる監督がこれから評価されると確信を得た作品でもあったの。

テーマがとても重く、予測の出来ない物語で、日常の何気ないライフスタイルに潜んでいるリアルな物語を独特のテンポで見せてくれるたわ。万人に受ける作品ではないと思うけど、必見の作品と言えるわね。

090207.jpg「プロジェクト・ランウェイ」(シーズン1)

常にプロフェッショナルであれ!

「アメリカン・アイドル」というオーディション番組をご存知の方は多いのではないかしら?そのデザイナー版「プロジェクト・ランウェイ」がとにかく面白い! TVドラマではないのでお間違えなく。

シーズン1を見たのだけど、ドキュメンタリーとは思えないほど色々な出来事が起こり目が離せないのよ。何千人という中から選ばれたデザイナーの卵達が共同生活をしながら課題をこなしプロデビューを目指して勝ち進んで行くの。

エグゼクティブ・プロデューサーでありホストであるモデルのハイジ・クラムは、いつもデザイナー達にプロとして接し、厳しい意見をガンガン叩きつける。他の審査員も同様妥協せず容赦ない発言をするから凄い!当初脱落していく参加者は、哲学を持たない自分に甘い人、そしてプロ意識が足りない人だったわ。やがてデザイナーとしての技術だけでなく、個性、そして仕事を請負う際のプロとしての自分のプレゼン力、クライアントとの接し方、共同作業における自身の立ち位置など様々な能力が試されていくの!

日本でも同じような番組があったけど、審査する側もされる側もレベルが低いし服のコンセプトに対してそれほど重要視されてなかった気がするわ。番組に登場するデザイナー達は自分自身がきちんと看板になっていたし、個々の個性も強烈。中でもピポ子が気になっていたのは、凄く女性的でメイクやお肌の手入れをかかさなかった男性デザイナーよ。

彼は可愛らしい女性らしいドレスを作る事に情熱を傾け、どんなアドバイスを受けても最後までその哲学を貫いたわ。残った出演者の殆どは審査員に何を言われても納得いかない事は言い返すし、自分の考えを押し通す・・・この勢いが日本で最も足りない部分であるかも。

このシリーズはもうシーズン4に突入するけどハードルはどんどん高くなる一方よ。才能を伸ばすだけでなく人間的な成長も見れるというのもドキュメントならではの楽しさであり、又色々考えさせられる部分も多いわ。

モデル時代意見を求められる事が無かったハイジ・・・でも今はその経験を活かし、デザイナー、プロデューサーとして見事に成功している。それは、彼女のファッションに対する情熱と確固たる意志が導き出した結果なんだと思うの。プロである事の厳しさ、楽しさ、そんな事を細胞にじわじわと伝えてくれるこの番組は恐るべし!専門学校に行こうと思う人がいるなら、その前に見るべきかもね。

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2009 2
マグノリア
プロジェクト・ランウェイ

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